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【8】-11

 へたり込んだままの千春の横に、今度は金井がしゃがみ込む。 「千春、俺が口を出すことじゃあないけど、有栖川さんの話、考えてみてもいいんじゃないか?」  千春は右手を開き、握り締めていた名刺をじっと見た。 「送別会、先送りにするかな。お客さんには俺がうまく話しておくから、今日はいったん上がれ。後でまた電話する」 「金井さん……」 「まだバイトを続けられそうなら、うちは大歓迎だ。いずれにしても、一回帰って、少し頭を整理しな」  ポン、と肩を叩かれて、小さく頷く。 「……ありがと」 「誠司に言って、何か美味いものでも食わせてもらえばいい」  何かあったのかと心配そうに様子をうかがう常連客やほかのアルバイトたちに、金井はただ「ちょっと、千春を先に上がらせる」とだけ言った。  窓ガラス越しに見える景色は相変わらず白茶けている。外では春の嵐が低い唸りを上げ続けていた。

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