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【9】-4

 青みのあるフルーティな味わいのシチリアのオイル、アスパラガスのような香りのトスカーナ産、プーリア産のものはオレガノに似たスパイシーな香りがした。小豆島のオイルは爽やか。一つ一つ味わった後で、千春は一番左の皿を指差した。。 「これが好きかも」  選んだのはオリジナルブレンドの皿だ。ソラマメやほうれん草、アボカドのような緑の野菜を思わせる香ばしさが際立っていた。  誠司が満足そうに頷く。 「ほかのもどんどん食え。気が付いたことがあったら何でも言えよ?」  そう言って、テーブルに料理を並べていった。  何でも言えと言われたけれど、千春は、ただ「美味しい」としか言えない。誠司は笑っている。  心が少し軽くなった。子どもの頃のように、満足そうに笑う誠司に笑い返せるくらいに、軽く。  現実に向き合うための気力が、ようやく少し戻ってきた気がする。 「やっぱり誠司さんのごはん、美味しい。みんなに食べさせたい」 「みんなって誰だよ」 「世界中の人、みんな」  昔から繰り返してきた同じやり取り。お店を出したらいいのにと、世界中の人に誠司の料理を食べてほしいからと千春が言うと、誠司は「いつかな」と答える。千春は、その時には自分が店を手伝うからと続ける。  当てにしていると、誠司が笑う。  千春の夢だった。 「お店、出したらいいのに」  昔と同じ言葉を呟くと、誠司は「ああ」と満足そうに頷いた。 「少し浮上したか」  長い腕が伸びてきて、さらりと千春の髪を撫でた。テーブルに腰を預けて、誠司が千春を見ていた。  離れてゆく手を咄嗟に掴む。誠司の表情がビクリと一瞬、強張った。 (そんなに、嫌なの……?)  千春の胸に涙の湖が広がる。  唇を噛んでうつむくと、誠司が硬い声で言った。

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