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【9】-7
「ずっと……、ずっと、好き……」
「……っ」
バカ、と言われたのだと思った。逃げようと身体を起すと、突然、強い力で抱きしめられる。息が止まる。
「せ……っ」
次の瞬間、顎を掬われ唇を何かで覆われた。
それが一度離れて、怒ったように千春を睨んだ誠司が、再びぶつかるように顔を近付けてきた。
「ん……っ」
噛みつくような口づけに、大きく目を見開く。近すぎる位置にある誠司の蟀谷 。
千春は、慌てて目を閉じた。
(どうして……)
ズキンと、砕けそうに心臓が脈打つ。誠司が千春にキスをしている。
ドクン。
再び大きな鼓動が肋骨の内側を打ち、壊れそうな心臓は、熱くて赤い血を全身に送り出した。
もう一度離れて、すぐにまた口づけられる。繰り返し何度も重ねられる唇に、千春の息が上がってゆく。
「は……」
吐息を漏らすと、わずかにできた隙間を押し広げ、熱い舌が侵入してきた。初めて触れる他人の舌の感触に、頭の奥で火花が弾ける。
「ん……、ん……」
大きな手のひらに頭の後ろを支えられ、夢中で誠司のシャツを握りしめていた。足りない酸素を求めるように心臓が激しく鼓動を打ち続ける。
(誠司さん……、誠司さん、ああ……)
湧き出る泉のように、幸福が全身に満ちた。
次の瞬間、黒いスーツ姿の美しい女性の横顔が脳裏に浮かび、心が一瞬で凍り付く。
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