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【9】-11

 上から手を重ねられ、しっかり握らされる、戸惑いながら目を上げると、気まずそうに一度目を伏せた誠司が、次の瞬間、獰猛な獣の目で千春を見つめ返した。  心臓が跳ねる。  指の下では想像をはるかに超えたサイズのものが、硬く張り詰めていた。熱を持ったそれは、ドクドクと脈打ちながら、千春の手の中で硬度と大きさを増していった。 (誠司さんの……)  淫らで激しい幸福感が千春の中に生まれる。この手の中に満ちる欲望は、千春と触れ合うことで生まれたものなのだろうか。だとしたら、それだけで泣きたいほど幸せだった。 「誠司、さ……」  揺れる瞳のまま見上げていると、誠司はどこか苦しげに、気持ちを宥めるような吐息を深く吐き出した。 「千春……」  互いのものを握り締めたまま、口づけを交わす。唇から頬、耳元へと移動した誠司の舌が、熱く湿った吐息とともに囁いた。 「千春……」  ほとんど呻くように、何かをこらえ切れなくなって吐き出すように、誠司が尋ねる。 「俺を、受け入れられるか……?」  千春は小さく息をのんだ。  どこで、どんなことをするのか。自分の身体の一つしかない受け入れ口を思い浮かべ、手の中で暴れる脈動の大きさに(おのの)く。こんな大きなものを、ちゃんと最後まで受け入れることができるのか、不安になった。  それでも、焼けた鉄のように熱くなった硬い楔が、今ここで千春の中に入ることを望んでくれているのなら、どんなことをしてでも、その欲望の全てを受け入れたいと思った。  今だけの衝動でもいい。  一度でいい。  誠司が欲しかった。 「して……」  誠司の首筋に囁いた。  ビクリと震え、素早く顔を上げた誠司が、まるで怒っているような険しい目で千春を見下ろす。  どうして睨むのだろう。涙が零れ落ちた。 「お願い、して……」 「千春……」 「して、誠司さん……。僕、頑張るから……」  泣きながら懇願すれば、硬質な印象の眉間にさらに深い皺が寄る。誠司がどこかに行ってしまうのが怖くて、細い腕で必死にしがみついた。 (離したくない……)

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