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【10】-6

 罪を犯した自分への、おそらくこれが罰なのだ。  さすがは神様……。効果は絶大だ。  それとも、願いを叶えたのは悪魔だったのか。  どちらでも同じだ。罪悪感と誠司への渇望に身を焼かれ、千春は生きたまま地獄を味わっていた。  清潔なダスターを手に、空いているテーブルを拭いてゆく。やわらかい乳白色の、木目を残した塗装面を、傷や汚れがないように丁寧に磨き上げる。  何かをしていれば、息ができる気がした。  何も考えず、日常の中の決められた仕事をこなしてゆく。  入り口のドアが開いて反射的に顔を上げた。 「いらっしゃ……」  言葉の途中で息が止まる。  ドアの内側に誠司が立っていた。その後ろには……。 「なんだ。店に来るなんて珍しいな」  金井の言葉に「仕事だ」と短く答え、誠司はじろりと千春を睨んだ。黒いスーツの女性に目を向けていた千春は、咄嗟に「仕事」という言葉の意味を掴み損ねた。 「千春」  低い声で名前を呼ばれ、ダスターを握りしめて固まっていた千春は、慌てて踵を返した。 「待て、こら」  足早に、誠司が近付いてくる。誠司に背を向けたまま、千春はトイレに向かって走り出した。 「千春! おいっ」  右手に女子用の広いトイレ、左にあるのは手洗いスペースと個室を合わせて一坪ちょっとの男子用トイレだ。千春は狭い男子用トイレに駆け込んだ。  追いかけてきた誠司が、一緒に中に入ってくる。 「……っ」 「待てよ、千春。なんで逃げるんだよ」  逃げ場のない狭い空間で、背中から抱きしめられる。音のない悲鳴が唇から零れた。  振り向かされて、正面から誠司と向き合った。顔を上げることができなかった。誠司の吐息を感じるだけで、鼓動が速くなり、身体が熱を持つ。頭の中がおかしくなる。

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