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【11】-3
「それなら、仕事で僕が誠司さんに会いに行けないかなと思って。なんだかちょっとかっこいいと思ったし。……でも、そんな自分勝手な動機で志望したから、バチが当たったのかもしれない」
ぽつりぽつりと話すうちに、誠司はなぜか無言になった。息が詰まりそうになった頃、エレベーターが十二階に着いた。
無言のまま廊下を進み、部屋の前まで来てもまだ黙っている。
何か話さなくてはと考えて、あまり聞きたくないことを話題にした。
「今日も仕事、お休みだったんだね……」
ずっと休みなど取らなかったのに。
証券市場は二十四時間動き続ける。週末以外は株や為替の値動きから目を離せないのだと、何かで読んだ。誠司が身を置くのはそういう世界だ。
「大丈夫なの?」
「ああ。会社なら、先月で辞めた」
「えっ?」
驚いている間に玄関のドアが開く。背中を押されて中に入り、ドアが閉まるのと同時に顎を掬われ唇を塞がれた。
「……っ」
壁に身体が押し付けられる。荒々しいほど深く貪られて、息ができなくなる。
「んぅ、……」
蕩 け落ちそうになる心と身体を、必死に宥めて抵抗した。
ダメだ。
こんなこと、してはいけない。
そう思うのに抗い切れない自分が辛くて、苦しくて、涙が零れた。
「や……だ……っ」
やっとの思いで、誠司の胸に手を当てて押し返した。零れる涙を長い指が優しく拭う。そっと抱きしめられる。
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