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【12】-2
早番で出勤し、開店準備をしていると、「少し、いいか」と誠司が店を覗いた。あの女性――鬼木と一緒だ。
千春を手招きし、「これが千春です」と紹介する。
「で、こちらは、インテリアデザイナーの鬼木麗子 さん」
「インテリアデザイナーさん……?」
状況がのみ込めず、誠司の顔と鬼木の顔を交互に見る。鬼木がにこりと笑った。
「はじめまして、鬼木です。あなたが吉野千春くん? 金井くんや上田くんから、お噂はかねがね聞いています。ねぇ……、本当に可愛いわねぇ!」
最期の言葉は金井と誠司に向けられたものだ。戸惑いながら挨拶を返す千春に、誠司が『カナイ珈琲』の内装も鬼木が手がけたのだと説明した。
「綺麗に使ってくれて、嬉しいわ」
鬼木の言葉に、カウンターの向こうから金井がV サインを寄越す。
「この前、千春と会ったヌーベル・シノワの店も彼女のデザインだ。ほかにもいくつか見せてもらって、この人にお願いすることにした」
「お願いするって、何を?」
「俺の店の内装」
「お、お店……? 誠司さん、お店を出すの?」
そうすればいいとさんざん言ったのは誰だと笑われる。三十までに起業することを目標に、これまでちゃくちゃくと計画を進めてきたのだと続けられて、驚く。
「最初の店にちょうどいい物件も見つかったし、早速、鬼木さんに改装の準備をしてもらっている。ただ、どうしても一度、おまえに会いたいと彼女が言うから……」
「だって、イメージは大切でしょ?」
情報が整理し切れない。
「待って。もうちょっと、ちゃんと……」
順番に説明してほしいとお願いする。
「もしかして、奈美恵おばさんに言った大事な話って、そのこと……?」
「母に? ああ。まあ、一応会社を辞めるし……。今後のこともあるから、ざっと話はしておいたが、それがどうかしたのか?」
母の話と合わせれば、勘違いした経緯はおおよそ推測できた。
けれど、店を始めるなどとはひと言も聞いてない。なぜ教えてくれなかったのかと、少し口を尖らせると「時期がはっきりするまで、内緒にしていた」と告げられる。
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