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 早番で出勤し、開店準備をしていると、「少し、いいか」と誠司が店を覗いた。あの女性――鬼木と一緒だ。  千春を手招きし、「これが千春です」と紹介する。 「で、こちらは、インテリアデザイナーの鬼木麗子(れいこ)さん」 「インテリアデザイナーさん……?」  状況がのみ込めず、誠司の顔と鬼木の顔を交互に見る。鬼木がにこりと笑った。 「はじめまして、鬼木です。あなたが吉野千春くん? 金井くんや上田くんから、お噂はかねがね聞いています。ねぇ……、本当に可愛いわねぇ!」  最期の言葉は金井と誠司に向けられたものだ。戸惑いながら挨拶を返す千春に、誠司が『カナイ珈琲』の内装も鬼木が手がけたのだと説明した。 「綺麗に使ってくれて、嬉しいわ」  鬼木の言葉に、カウンターの向こうから金井が(ブイ)サインを寄越す。 「この前、千春と会ったヌーベル・シノワの店も彼女のデザインだ。ほかにもいくつか見せてもらって、この人にお願いすることにした」 「お願いするって、何を?」 「俺の店の内装」 「お、お店……? 誠司さん、お店を出すの?」  そうすればいいとさんざん言ったのは誰だと笑われる。三十までに起業することを目標に、これまでちゃくちゃくと計画を進めてきたのだと続けられて、驚く。 「最初の店にちょうどいい物件も見つかったし、早速、鬼木さんに改装の準備をしてもらっている。ただ、どうしても一度、おまえに会いたいと彼女が言うから……」 「だって、イメージは大切でしょ?」  情報が整理し切れない。 「待って。もうちょっと、ちゃんと……」  順番に説明してほしいとお願いする。 「もしかして、奈美恵おばさんに言った大事な話って、そのこと……?」 「母に? ああ。まあ、一応会社を辞めるし……。今後のこともあるから、ざっと話はしておいたが、それがどうかしたのか?」  母の話と合わせれば、勘違いした経緯はおおよそ推測できた。  けれど、店を始めるなどとはひと言も聞いてない。なぜ教えてくれなかったのかと、少し口を尖らせると「時期がはっきりするまで、内緒にしていた」と告げられる。

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