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【12】-3
「千春を驚ろかそうと思ったんだよ」
得意そうな顔で、そんなことを言う。
「驚いたか?」
「驚いた……」
素直に頷くと、誠司は満足そうに笑った。
驚いたのは本当だ。知らない間に、何やらずいぶん話が進んでいる
もっとたくさんの人に誠司の料理を食べさせたい、だからお店をやればいいと、確かに千春は言った。けれど、それを誠司が本気にして、こんなふうに実行してくれるとは思ってもみなかった。
店に寄ったのは、本当にただ、鬼木に千春を引き会わせるためだったらしく、誠司と鬼木は早々にどこかへ行ってしまった。
忙しそうだ。
「誠司さん、いつからお店をやろうなんて思ってたんだろ」
「ん? 千春、本当に知らなかったのか?」
何を、と思って金井の顔を見た。
「あいつ、学生の頃から考えてたぞ」
「え?」
「だいたいの目標を立てて、三十くらいまでに起業するにはどうすればいいかとか、いろいろ調べて、資金調達のことも考えて……。稼げる外資に就職したのもそのためだし、必要な手続きや資格の取得なんかも、全部進めてあるんじゃないか?」
そんなに前から……。
驚く千春に、金井は「これだもんな」と笑う。
「誠司も健気というか……、でも、まあ、報われたみたいでよかったけどな」
「健気……」
健気とは、どういう意味だろう。
首を傾げる千春に、金井はとんでもないことを言い始めた。
「千春、誠司の料理をみんなに食べさせたいって言っただろ?」
「うん。言ったよ?」
「みんなって誰のことかって聞かれて、なんて答えたか覚えてるか?」
首を傾げると、金井が「ほら……」とまた笑う。
「おまえ、『世界中の人に』って言ったんだよ。だから、誠司は……」
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