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 『世界中はさすがに大変だ』と笑いながら、取りあえず地道に日本から展開していくことにしたらしいと、金井は言う。 「日本……?」 「あいつの頭の中にあるのは有栖川さんの会社みたいな、チェーン店方式の企業か何かなんだろうな」 「え……っ」 「じゃなかったら、どこかの店に弟子入りして、料理の腕なり経営のノウハウなりを身に着けて独立するほうが、ずっと早いし」  金井に言われて、確かにそうかもしれないと思った。  誠司の頭の中を想像してみる。 (有栖川さんみたいな……。『ボナヴィータ』みたいな会社を作ろうとしてるの……?)  あまりの壮大さに驚く。それでも、どこかで、それは誠司らしいことのようにも思えた。  そして、誠司ならきっと成功するだろうと思った。 「千春、誠司の店を手伝いたかったら、ここを辞めてもいいからな」 「金井さん……?」 「おまえは元々、誠司からの預かりものだし」  黙って見つめ返すと、金井がふっと笑う。 「千春、高校に入ったらアルバイトするって決めてただろ。そうしなきゃならないってわけでもなかったみたいだけど、母さんだけ働かせて自分は遊んでるのが嫌だったんだよな」  自分も同じだからわかると金井は言った。  『カナイ珈琲』と小さなビルを残して金井の父親が他界したのは、千春と同じ小学生の時で、それからずっと、一人で店に立つ母親の背中を見てきた。  アルバイトならほかの誰かでもいいとわかっていても、自分にできることがあるなら何かしたいと思って店を手伝ってきたのだと。 「だから、おまえの気持ちはよくわかった」

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