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【13】-3

「千春に欲情してた」  そろりと腰に手を回され、甘い疼きが背筋を走り抜けた。 「昔から、可愛い子どもだとは思ってた。それこそ、よちよち歩きの頃からな」  年に数回、盆や正月や法事の席で顔を合わせていた頃から、小さな千春が可愛いくて仕方がなかったと、誠司はそんなことを言った。  千春が覚えていない頃の話だ。 「おじさんが事故に遭った時、あの小さい子どもはどうしてるだろうと思った。寂しい思いをしていないかと思って、胸が痛んだ。使いを頼まれて千春の家に寄るようになって、構っているうちに、またどんどん可愛くなって……。ちびのくせに必死にふんばってる姿を見たら、なんだかいじらしくてな……」  気が付いた時には、放っておけなくなっていたと、千春を腕の中に包んだまま静かに笑う。 「おまえに笑っててほしくて、おまえのことばかり考えてた。それが……」  いつからだろうなと、誠司は吐息のような小さな声で囁く。 「千春が、初めて俺の胸で泣いた時からか……。あの時にはもう、少しまずいような気がしてた」  そばにいれば触れたくなって、触れるだけでは我慢できなくなりそうで、それではまずいと思って、千春を遠ざけたと言う。 「それで、だったの……?」  嫌いで遠ざけたわけではなかったのだ。 「嫌いなわけないだろ。だんだん、自分が何をするかわからなくなって、怖くなってたんだよ」  そんなふうに誠司が悩んでいたことを、千春は少しも知らなかった。ただ寂しくて悲しくて、それでも我慢して笑うしかなかくて、それがずっと辛かったのだ。  誠司の背中に回した腕に、ぎゅっと力を込めた。同じ強さで抱き返されて、幸福感が胸に満ちる。身体がぴたりと隙間なくくっついた。 「そんな状態の時に、あの嵐の夜だろ……。今みたいにしがみつかれて、理性が飛んだ。俺が二十一かそこらの時だ。簡単には止まれない……。俺は、あの時、千春を抱こうとした。まだ、子どもだ。手を出したら犯罪だ、そうなれば俺は変態だと思っても、もうダメだった」

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