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第2話

 口を開こうとしたその刹那、男の膝がぐいと伸びた。身構えることも出来ず容易に蹴り飛ばされ、後に尻をつき倒れた。その蔑むような瞳に劣情を煽られる。  「逃がさねえ」  畳に押し付けられた燃えさしの煙草が青緑色の原に黒く焦げたしみを作った。勢いをつけ半身を起こすと同時に男の腰を引き寄せる。怜悧な瞳が一瞬大きく見開かれる。口付けたのか、付けられたのか。乱暴な口吸いと荒い息。苦い草の味はこの男が愛用しているもの。  「…魚ごときが龍を容易く堕とせると思うな」  至近距離で吐き捨てられた言葉に嗤いが零れた。  「鯉も登れば龍になる」背中に負うた鯉は忠義だけを示すものではない。飛竜を打ち落とすだけの覚悟が、今の自分にはある。  「そう易く登れる門だと思うなよ」  そう笑った唇に食らいつく。舌を潜り込ませた刹那、ごりと、肉を喰う音がした。火箸で刺されたような強い痛みが走る。痛いのか熱いのかそれさえ定かではない。口の中に溜まった唾を吐き出す。そこにはぬらぬらと夜灯に光る赤黒い溜があった。狂う程強い感情がまたおきる。欲しい、この男が。脚を掴みぐいと引く。剥き出しになった陰茎はまだその勢いを失ってはいなかった。  「早漏野郎と違うんだよ」  奉仕しろと言わんばかりの声。内腿を伝った残滓を指で掬えば引き締まったそこが僅かに動いた。この男が女のように己を欲する姿はどれ程無様で…そして滑稽だろうか。  「見てやるよ、あんたの惨めな姿を」  顔を寄せながら囁けば、男は挑発するように自ら長い脚を開いた。  「自分からアンコにされようってのか?」  開いた伸びやかな足の狭間、自分の濁液を垂らす窄まりに視線を這わせた。  「アンコもなにも、ろくすっぽ相手をイかせる技も持たねぇ砂利餓鬼が大層なクチ利いてんじゃねぇよ」  臀部にまで続く刺青が畳に潰されてひしゃげている。両の脚が腰に絡み付いてきた。心底欲しいと両の腕を差し出したはずなのに絡みつくその艶かしい脚に何故か一瞬気が引けた。こちらを見透かすようなその薄笑いにぎりっと歯噛みした。  「小僧呼ばわりされて黙っていられるか!」  唸るように声を絞り出しその腰を掴むとぐいと手前に引き足の付け根に舌を這わせた。 女のような柔らかさなど微塵もない白い肌に吸い付く。窪みの横にある陰嚢を舌で転がし、濡れた太股をグッと押し開いた。そのまま晒された陰茎には触れず膝頭に向けてゆっくりと舌で辿れば、細くとも大きな手に頭を掴まれた。  「て、め…女みてぇに扱うな」  鋭く睨み付けてくるのにニッと笑ってみせた。  「死ぬほど痛い方がイイんですよね」  唇を膝へと滑らせる。膝横辺り肉の薄くなった皮に近い場所で口を開く。「く、」鈍い呻き。押し込まれた犬歯は皮膚を裂かずとも食い込み、痕を残す。びくと大仰に震えた大腿の狭間から注ぎ込んだ濁液が漏れる。「こんなに濡れちゃ、痛みもなんもねーでしょうよ」  「アンタは大人しく抱かれていれば」  高笑いが響く。  「そんな粗末なもので満足しろと?」  この男はこの状況を楽しみ全てを意のままに操る。頭で理解していても艶づく肌に惑わされる。薄らと滲んだ血が煽る。あがけばあがくほど深みにはまる。しかし、自らの手は意志とは別にその窄まりへと伸びていた。  「っ、グッ…」  一瞬詰まった男の声。誘われるがまま指を一気に2本差し込み中に放った欲を無遠慮に掻き回した。先程まで自身を飲み込んでいたそこは中は柔らかく入り口は固い。淫猥な水音と時折大きく息を吐き出す男の呼吸が混ざる。締め付けに逆らいながら乱暴に抜き差しを繰り返し、表情を盗み見た。眇た目、眉間に刻まれた皺。およそ悦楽とは離れた苦悶。無遠慮に抽挿し、二指を曲げて粘膜を掻く。跳ね上がった脚を無視して中で指を捩るとにちゃと音がする。  「生きるか、死ぬか、ってのが好きなんでしょう?」  問えば眇られた目が弧を描く。ひしゃげた口が笑みを漏らす。  「ヤり殺そうってか?」  「素直に殺されてくれるならどれだけ良いか」  その言葉に右の口角だけが微かに上がる。  「まだだ」  まだと言われたのはこの苦痛にも似た快楽が足りないということなのか。親指で布久利をぐいと押すと腹の中がまるで生き物のように蠢く。一瞬深くなった眉間の皺にえも言われぬ充足感を覚えた。

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