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第7話

その年は悪天候が続き、木の実や畑の収穫がいつもの半分も採れなかった。これでは冬が越せぬと、婆様と佐助は毎日せっせと(きのこ)や食べられる木の皮やつるなどを集めては干し、少しでも蓄えにしようとしていた。 山の木々が落葉を始め冷たい風が吹くようになったある日、突然酷く狼たちが吠え始めた。ウォンウォンという狩りの時の声ではない。昼間にはあまり聞かぬ遠吠えだ。 それを聞いた婆様が、硬い表情を浮かべ立ち上がり、鋭い声で佐助を呼んだ。 「今すぐ隠れるぞ。洞穴までは間に合わんかもしれん、木の密なところに身を隠すんじゃ」 茸を干す作業をしている途中だったので、佐助は戸惑う。 「こんままじゃ、鳥や獣に食われるよ」 「それでもええ、早う」 二人でつんのめる様に駆けて木々が生い茂る中へ飛び込み、身を伏せ息を潜めた。 ほどなく、ザクザクと落ち葉を踏む音とはあはあと荒く息を切らす音が聞こえてきた。 「ここじゃ、婆の小屋は!」 「やっと見つけたか」 「婆、おるか!」 里から登って来たと思われる男が二人。 それぞれ手にしているものが陽の光を鈍く跳ね返しているが、あれは(かま)か? 訊ねた割には返事を待つ様子もなく、いきなり戸をガタガタと乱暴に鳴らし、とうとう力任せに壊して勝手に中に入っていく。 「なんっ」 憤慨して声を上げそうになる佐助の口を婆様の手が塞ぐ。 「干し柿じゃ!とちの実と胡桃もあったぞ!」 「こっちには茸を干したんを溜め込んでおるわ!」 「薬草はこっちじゃ。これは町に売りに行けばええ……だが、どれが何やらわからん」 「婆を探せ、効き目を言わせるんじゃ。それに他にもなにか蓄えとるかもしれんから吐かせるんじゃ」 「どうせ、もう萎びた婆だ、ここで死んでおったって誰も気付かんし不思議にも思わんさ」 小屋から出てきた男たちは周りをうろうろ探し始めた。 見つかったらどうしよう。男たちはえらく殺気立っている。 きっと見つかればいつもの様におらは酷く痛めつけられる。相手が子供でないのが今は逆にまずいと、危険を感じて皮膚がチリチリと粟立つ。 だがそれよりも婆様に乱暴を働かれたら…… 次第に近づいてくる男の足音に、佐助は心を決めた。 おらが飛び出せば、きっとこいつらはおらを追って来る。おらは山ん中をよく知っとるからきっと上手く逃げられる。もし捕まったとしても、婆様が苦しめられるよりましじゃ。 覚悟を決め伏せていた身を起こすと、ガサリという音に男の一人がこちらを向いた。 「おい!こっちにおるぞ!」 男の声に走り出そうとしたその時、佐助のすぐ傍で「ガウルルゥー、ヴゥー」と大きな獣の唸り声がした。

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