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第11話

「あのっ、おらなんかを助けてもろうて……おかげで命拾いを……あの、怪我とかされとらんですか?」 あんなに高いところから落ちたのを抱き留めたのだ。かなりの衝撃があったはずだ。 既に背中を向けていた男が立ち止まる。 「あの、里んお方ですか?お礼に何か……山のもんでよければ……あ、でも……おらなんかが行くと気味悪がられて迷惑かけるかぁ……」 初めて婆様以外から受けた厚意にどうしていいのかわからない。だがとにかく、落ちてきた自分をとっさに抱きとめただけでなく、ためらうことなく毒まで吸い出してくれたこの優しい人に、何か感謝の気持ちを表したかった。 立ち止まっていた男がゆっくりとこちらの方へ向き直る。その姿に佐助は息を飲んだ。 男の顔立ちが恐ろしく整っていたからではない。その目が黄金色だったからだ。 あ……おらとおんなじ…… そういえば髪の色もしろがねだが、その顔は若々しく年寄りの白髪ではない。自分以外にもこういう人がおったのか? 「あの、あの……おまあ様は、あの、この下の里におらさるですか?」 痺れのせいで言う事を聞かぬ下半身に、いざるようにして男の方へ寄ろうとする。 その様子を見た男はこちらへ数歩戻り、佐助に目線を合わせる様に膝を折った。 なんちゅう見目の良いお人じゃ…… 口をきくのも忘れ、佐助は見とれてしまう。ああ、眼まなこの真ん中はおらと違って黒いんじゃな…… 「私は里のものではない」 静かな声で男が答え、佐助は納得した。 明らかに里の人達と何かが違う。髪の色云々ではない。もっと何か高貴というか神々しいのだ。 どこか遠くにあるという都の人なのか? だが、そんな佐助の読みは外れたうえに、驚くべき答えが返って来た。 「私は、この山で暮らしている」 信じられないというように佐助は目を見開いた。 そんなに小さな山ではないとはいえ、山で育った佐助は大方のことは知っているつもりだった。おらと婆様の他にもこの山に人が住んでおったとは。 「おらも山に暮らしとるのに、全然知らんかった……どこいらへんにおらさる?」 勢い込んで訊ねた後に、はっとした。 もしかしたら、この人も髪や目の色が違うから里にはおれんのだろうか。辛くてあまり話したくないかもしれない。余計なことを聞いてしまっただろうか。 「あの、あの……礼を届けるにはどうしたらいいんかと……思って」 「礼など及ばぬ」 男は柔らかく微笑み、大きな手で佐助の頭を撫でた。 佐助の目は驚きに再び丸く見開かれる。 ああ。婆様以外におらに笑いかけてくれる人がおるなんて。頭を撫でて、いや、触れてくれる人がおるなんて。 「あ、でも……あのっ」 胸がいっぱいになって言葉がうまく出てこない。 「無理をせずいつもの通りに話せばよい」 確かに目上の人に丁寧な言葉を使うことはなんとなく知っていたが、いつもはお天道様の話をするときにしか使わないので勝手がよく分からない。そもそも婆様以外の人と口をきいたことなど無いに等しいのだ。 だが、言葉が出ないのはそのせいではない。 初めて、人らしく扱ってくれたこの人に、何か言いたいのだが、何を言いたいのか自分でもよく分からないのだ。 だが男は穏やかな表情で佐助の言葉を待ってくれている。

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