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第12話

胸がどくどくどくどくと音を立てている気がする。 なんだ、おら、どうしたんだ? 口をぱくぱくさせながら男の眼を見つめ返し、ようやく佐助は、礼をしたいのは勿論だが、それ以前に自分はもっとこの人と話をしてみたい、もう一度この人に会いたいのだと気が付いた。 迷惑に思われるかもしれない。でも……断られたら諦めればよいと勇気を振り絞る。 「あの……おらのこと気味悪くない?」 男は首を横に振る。 「そ、そんなら、また会える?」 頭に血が上り、ごーごーと自分の血が流れる音が聞こえるようだ。 暫くじっとこちらを見つめたまま黙っている男に、ああ困っているのか、やっぱり無理言ったらいかんかったと変な汗が流れ始めた。 だが、男はふっと笑って「では、会う場所を決めよう」と言った。 嬉しくて思わず顔をぱあっと綻ばせる佐助を、男は急に抱き上げた。 「え?え?」 「会う場所へ案内するのだ。まだ足が痺れて歩けぬであろう?」 その通りだったので頷くと、男は佐助を横抱きにしたまま、神社の横を通り抜け山を登り始めた。 軽々と自分を抱く男は随分と背が高いようだ。そして見上げる整った横顔がやはり里の人達とはずいぶん違う気がする。 神社の奥から暫く登ったところで急に視界が広がり、そこだけぽっかりと周りを木々に囲まれた草原のようになっているところへ出た。周りは背の高い木々に囲まれているがそこだけまあるく空が見えている。 男は草の上にそっと佐助を降ろし、その隣に自分も腰を下ろした。 「ここはどうだ?眩しすぎるか?」 「木陰もあるから平気。綺麗なとこじゃあ。おら、こんなところがあるん知らんかったよ」 「そうか。道は覚えたか?」 道らしい道は無かったはずだが、山で育った佐助は地面の傾斜や陽の角度から自分のいる位置を把握するのにも、目印となる大木などを覚えておく(すべ)にも長:(た)けていた。 「私に会いたくなったら、ここへ来て合図を……口笛か指笛は吹けるか?」 「うん。おら、鳥寄せするんが好きで、鳴きまねが得意。えっと例えばカヤクグリはこんな感じで」 口笛でカヤクグリの鳴きまねをしてみせると、男は目を細めて上手いと褒めた。 「ここからカヤクグリの鳴き声が聞こえたら、会いにこよう。どうしても来れぬ時は許してくれ」 「ちゃんと……聞こえるかな……」 「私は耳がいいからきっと聞こえる」 「あの、おらは佐助。おまあ様の名は……えっと、なんて呼んだらいい?」 「……私の名は……もう久しく呼ばれたことがないな……」 「え?」 少し淋し気に聞こえたその声に驚いて男の顔を見上げると、どこか遠くを見ているような眼。だが佐助の視線を感じたのか、安心させるように微笑んで見せた。 「私の名は、嵬仁丸(かいじんまる)」 「かいじんまる様」 そうだと言うように男は頷いた。

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