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第16話
確かに狼の群れなどは互いに分かり合っているように見えるが、獣の種を越えてもそれは同じなのだろうか?人には分からない獣たちに共通する言葉があるのだろうか?
「嵬仁丸様は獣と話が出来るん?おらはずっと山に暮らしとるけど、そこまで分からんよ。おらも、獣の言葉が分かったらいいのに」
そうすれば、山の静かすぎる暮らしもずっと楽しくなるだろう。
「それに言葉が通じたら、あんな可哀想なこともせんで済んだなあ」
「可哀想?」
「うんと小さい頃やったけど、おら、メジロに夢中になったことがあるん。鶯は用心深くてなかなか寄ってこんけど、メジロは鳥寄せで集まって来ることもあるし、柿の実やら甘いんを枝に刺しとったら突つつきに来るん。
メジロってとっても可愛いじゃろ?おら、どうしてもおらだけのメジロが欲しくなって……ざると餌で罠を作って、やっと飛べるようになった雛を捕まえたん。自分で竹ひごでこしらえた籠の中で飼って、友達になりたかったんよ。
籠の中にメジロの好きな甘い蜜の花いっぱい入れて、ちゅんちゅん鳴きよるんにおらも鳴きまねで答えて、自分ではお喋りしとる気になって嬉しかったん。
でも、だんだん鳴かんようになって、籠に好物の果物やら入れてみたけど……3日目の朝に目が覚めたら……籠の中で動かんようになっとったの。慌てて籠から出したけど、もう冷とうなってて。
山の獣が食われて死ぬんは、食う獣の命を繋ぐために仕方がないことだけども、あの雛はおらの身勝手のせいで、死んでしまったん。きっと、本当は籠から出してくれ、親鳥のところに返してくれって泣いとったのに。懸命に訴えとったんやろに」
「そうか」
嵬仁丸は、項垂れる佐助の肩に手を置いた。
「佐助はメジロを閉じ込めたかったのではなく、通じ合えるものが欲しかったのだろう?」
なんと可哀想な事をしたのだと失敗を責めるのではなく、あの時の自分の気持ちに嵬仁丸が寄り添ってくれたことに佐助は胸がきゅっとなってなぜか涙が出そうになった。
そうなのだ。メジロを可愛がって世話をしたら、いつか懐いて自分の手の上に乗ったり、そのうち籠から出しても口笛を吹いたら自分の方へ飛んできてくれるようになるのではと幼い佐助は夢見ていたのだ。
「ここで山の獣たちと触れ合うことは、お前の慰めになるか?」
「え?」
「きっとお前なら獣たちを傷付けたりはしまい。月見が原では佐助も同じ仲間だと獣たちに伝えておこう」
あの雛の一件から佐助は獣たちに無闇に近付くことを避けてきた。せいぜい口笛で鳥寄せをして集まって来た小鳥を眺めているだけだ。
でもこれから、ここに来たらもうちょっと仲良くなれるかも知れんの?
ああ……もしかして嵬仁丸様はおらの寂しさに気付いてくれたん?
佐助は自分の中にぽわっと温かいものが生まれたのを感じた。それなのに、また胸がきゅっとなる。
おかしいな。今まで胸が痛いと感じたのは、里の人達に心無い言葉を投げつけられ悲しい思いをしたようなときばかりだったのに。
優しく気遣われても、こんな風になるなんて。
今日は今まで知らなかった色々な感情に振り回されて心の動きが忙しい。人と関わるってこういうことなんかな?
傍らに立つ男を見上げながら、佐助はぼんやりそんなことを考えた。
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