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第21話

「佐助」 気付けばすぐ傍に嵬仁丸がやって来ていた。 「少し久しいな。元気であったか?」 佐助は頷いた。 「どうした、今日は少し覇気がないな」 嵬仁丸はすぐに佐助の浮かぬ顔色に気付いたようだ。 「うん……この頃、婆様の具合が良くないん。すっかり食も細うなって、体もあちこち痛むんて」 もともと小柄で痩せている婆様だが、このところ益々小さく見え、消えてしまうように感じて、佐助は不安で仕方がなかった。 そのうえ昨日は臥せる婆様を心配する佐助に「そろそろ婆の役目も終わりじゃ」と心配になるような事を言ったのだ。 「次に山を下りるときはおらが婆様を背負(しょ)って行こうと思う。本当はおらが一人で代わりに行ってあげられればええんだけど……婆様がえらい心配するから」 「そうか」 佐助の心にも里に対する恐怖心は根強く残っているが、婆様も今まで佐助が受けた仕打ちの数々を忘れられないのかも知れない。 「婆様が死んでしもうたら、おら一人ぼっちになる」 いくら無口な婆様といっても、二人で暮らすのと自分一人になるのとは大違いだ。命には限りがあることは分かっていても、その時が来るのが怖かった。 「嵬仁丸様と知り合おうてて良かった。そうでなかったら寂しくて耐えられんかも。……嵬仁丸様はずっと一人で寂しくなかったん?」 「……今は……そうでもない」 「……嵬仁丸様も人が嫌いなん?」 「さあ、どうだろうな」 やっぱり嵬仁丸様と婆様って似とるところがある。微妙に答えをはぐらかすところ。なんでちゃんと教えてくれんのじゃろ。急に胸がざわざわした。 「……本当はおらのこともあんまり好きでない?こうやって度々来るんを、本当は迷惑に思っとるんでない?」 「なぜそんな風に思う?」 「だって……嵬仁丸様はおらに色んなことを教えてくれるけれども、教えてくれんこともいっぱいあるじゃろ?時々おらんようになる時も、何をしとったんか教えてくれんし……おらは嵬仁丸様が大好きじゃから、隠し事されるとなんか胸がちくちくするん」 せっかく久し振りに嵬仁丸に会えて嬉しいはずなのに、こんなこと口にしない方がいいとわかっているのに言葉にしてしまうのを止めらない。そんな自分が嫌になる。 膝を抱え俯いた佐助の頭を嵬仁丸が宥めるように撫でたとき、遠くから狼の遠吠えが聞こえてきて、佐助ははっと顔を上げた。 「行くん?」 「何故?」 「狼が鳴いたら、よくいなくなるじゃろ」 無言のまま立ち上がる嵬仁丸を見上げて佐助は言った。 「おらも一緒について行ってもいい?」 「……」 「嵬仁丸様の邪魔にならんようにしとるよ?」 「……すまぬ」 佐助の眉根がきゅっと寄る。 「誰に会いに行くん?」 「……」 「おらには知られとうないんね」 「…………お前にそのような顔をさせるのであれば……出会わぬほうがよかったか」 嵬仁丸は微かに寂しげな表情を浮かべるとそう呟き、踵を返し木立の中へ入っていった。

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