23 / 115
第23話
パキッ。
小動物ではない、かなりの重量のある獣が木の枝を踏んだ気配にはっとして、神経を尖らせ周りの様子を伺う。
ガサッ。
音がした方へ視線を送った佐助の背筋が凍りついた。
熊だ!
まだ距離はあるものの、熊の両目はしっかりこちらを捉えている。この季節、熊は冬ごもりの支度をするために一番活発に狩りをする。
佐助は常々、自然の理 の中で自分が他の生き物の獲物になることがあってもそれは仕方がないと思って生きてきた。強いものが弱いものを狩って喰う。山の中で日々当たり前に行われている自然の掟だ。だが今は体の弱った婆様の事が頭をよぎる。
婆様を置いて、おらはまだ死ねない。
熊が走り出した時、どっちへ逃げるのが最善か……熊の気が変ってくれることを祈りながら少しずつ後じさる。
願いもむなしく、熊はぶるりと胴を震わせるとこちらへ向かって進み始めた。沢に渡した丸太橋を落とせば、あるいは。そう思って佐助が駆けだそうとしたとき、突然背後から狼が吠える声が聞こえた。
これは近い!そしてどんどん近づいてくるその鳴き声は彼らが狩りを行う時のもの!
前からは熊、背後からは狼の群れ。絶体絶命。
これは助からんかもしれん。婆様……ごめん。
しかし姿を現した狼たちは佐助の横を矢のようにすり抜け、熊の方へ突進していった。
歩みを止めた熊と狼たちが僅かな距離を挟んで対峙する。どちらも牙を剥きグルルルと低い唸り声を上げて互いに激しく威嚇し始めた。
!どうしたんじゃ!?
訳はわからぬが、とにかくこの隙に逃げるべきだ。物音を立てぬように下がり始めたとき、思いもよらぬものが視界に飛び込んできた。
脇の木立から、嵬仁丸が姿を現したのだ。
ともだちにシェアしよう!