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第27話

「あ、言いとうないんやったら話さんでええんよ?」 「……そうではない。ゆくゆく佐助に話すことになるだろう。 父がどれほどの力を持っていたのか私はよく知らぬ。父はもっと私が大きく育ってからそれらを伝えるつもりであったかもしれぬが、その日が来る前に終わりが来た。私は何も分からぬままに一人になり、眷属(けんぞく)である狼や山の獣たちに育てられた。 私にも人や獣たちにはない、いくばくかの力がある。だが、長い時をかけて分かったことは、私は神でもなければ鬼でも物の怪でもなく、私は私でしかないということだ。 そして、私は持てる力を己の信じる形で使ううち、山のものたちとの間に暗黙の約束事が出来た。そのような訳で私は山を()べているつもりはないし、山のものたちによって生かされているのだが、皆、私の事を(ぬし)と呼ぶようになった」 「山の(ぬし)様……」 まだ嵬仁丸の話は分からないことが沢山あったが、山の(ぬし)、というのは嵬仁丸にぴったりだと佐助は思った。 「婆様は、嵬仁丸様が狼の姿になれることを知っとるん?」 そこで嵬仁丸がくすりと笑った。 「婆様は……知っている。ここら辺りで唯一、私の存在を知っている人だ。まだ私が未熟であったころ、変化するところをうっかり見られてしまったのでな」 「え、うっかり!?」 「私が人の姿で狼たちと居るところを見て、襲われていると勘違いをしたようでな。助けねばと思ったらしく、狼たちに石のつぶてを闇雲に投げてきたのだ。 私は驚き慌てて、咄嗟に狼の姿になってしまった。きっと、その方が早く逃げられると思ったのだろうな。だが、着ていた衣が絡まってしまってな」 「うふふふ」 まだ小さな狼の嵬仁丸が、衣に絡まり慌てふためく姿を想像したら可笑しくなった。 「でも、婆様も命知らずじゃねえ、狼の群れに石を投げるなんて」 「そうだな。まだほんの幼い小娘の頃だった。おまけに私に絡まっている物を取ってやろうと手を伸ばしてくるので、狼たちが私を守ろうと牙を剥くし、どちらも止めるために私は絡まった獣の姿のままで口をきくしかなくなってな」 「あははは」 「だが、誰にも見たことを話さぬと約束をしてくれた」 「そっかぁ、そんな昔からの知り合いだったんね」

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