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第33話

「わしはその時、この恨み必ず晴らしてやると心に決め、里を棄てて山に入った。庄屋もその倅も、組のもんらも、弥吉を捕えて連れて行った弥吉の友達も絶対に許さん。皆、殺してやるつもりじゃった。 わしは幼い頃から婆様に連れられて山に入り、薬草について仕込まれておって誰より詳しかった。 腕っぷしではかなわんでも、毒のある薬草を使って里のもの達を必ず(あや)めてやる、それが済んだらわしも弥吉とおようとこれから生まれるはずじゃった孫のもとへゆくのだと心に誓って、血眼になって毒草を探し集める毎日を送っておった。 山の主様がそれを知って、そんなことをしたらその者たちだけでなくわしも人の道を外れてしまうからやめておけと諫めなさった。 そんでもかまわん、わしを生かしておるのは憎しみと恨みだけじゃ。このまま生きておっても業火に焼かれるような痛みに耐えんならんと聞く耳をもたなんだ」 婆様の言う山の主は嵬仁丸様のことだ。 「あの日も毒草を探して山を歩き回っておったのじゃ」 「あの日?」 婆様は頷いた。 「山の中で、お前を見つけた日じゃ」 どくんと佐助の鼓動が跳ねた。 「あの日、山を歩き回るわしの耳に、幼子(おさなご)の声が聞こえてきたんじゃ。 滅多に人が足を踏み入れん山の中じゃ。不思議に思うてあたりを探すと、女子(おなご)が行き倒れておった。そのそばで小さな子が声をあげながら懸命に女子の袖を引いとったんじゃ」 女子(おなご)? もしかして、それって……おらのおっ母? おらは山の中に捨てられとったんじゃないん!? 予期せぬ話に佐助の胸は早鐘を打ち始めた。 「見掛けん顔じゃったし着とるもんから、ここらの百姓ではないと分かった。確かめてみると、まだ微かに息があったんじゃ。着物を緩めて水を含ませてやるとうっすらと目を開いた。 そこへ山の主様が来られて、女子(おなご)を小屋まで運んでくださった。わしは幼子(おさなご)を抱き上げて、驚いた。その子が見た事も無い目の色をしておったからじゃ。たまげはしたが、真っ直ぐわしを見返すつぶらな瞳は澄んでおって、これはきっと悪いもんではないと思うた。 女子(おなご)は息も絶え絶えにこんな所へやってきたいきさつを話した。 見てくれが奇異な赤子が生まれ大層驚いたが、年寄りの産婆がただの病のせいだと言ったので、家の奥で乳母たちと隠すように育てていた。だがその後、家に不幸や災難が続き、どこぞの祈祷師が祟りのせいだと言い始めた。 人の口に戸は立てられぬ。隠しておったおかしな子の話は祈祷師の耳に届いた。やはり、悪霊が赤子となってこの家に現れたのだ、大きく育って大きな災いを呼ぶ前に退治をせねばならんと家長に進言した。 ただ悪霊が憑りついておるだけなら、護摩(ごま)の火中に放り込めば悪霊だけが退治され普通の色の子供が残る、悪霊そのものならそのまま燃え尽きるだろうと言ったそうな。 女子(おなご)はこのままでは殺されてしまうと、我が子を抱いて逃げてきたんじゃ」

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