37 / 115

第37話

婆様は自分の(むくろ)を山の頂に近いところに生えている桜の木の下に埋めて欲しいと言った。 佐助の母の亡骸は小屋を見下ろす位置にある白辛夷(しろこぶし)の木の根元に嵬仁丸と埋めたそうだ。そうすることで、佐助が育つさまを見せてやりたかったと婆様は言っていた。 婆様は桜の木となって山のてっぺんからおらや遠く川に流されていった弥吉さんやおようさんを見たいんかな。それともなるべく人里から離れて空を見上げていたいんかな。 口数が少なかったのには理由があったと知る今は、きっと婆様なりの訳があってのことだと思うから、佐助はただその願いを叶えてやるだけだ。 手を貸すと言った嵬仁丸の申し出は「これはおらが全部やりたい」と断った。だが、嵬仁丸は一緒について来て、佐助の作業を見守っている。 墓石など要らぬと言った婆様の意を汲んで、亡骸の上にかけたまだ柔らかい土をなるべく平らに均ならす。この剥き出しの土もあっという間に草木に覆われ、ただの山の一部となるだろう。 全ての作業を終え、山の尾根から下を見下ろす。 もう亡骸も土の中。婆様の形は佐助の前からすっかり消えた。だけど、胸の中は婆様への感謝の気持ちや幼い頃からの思い出で一杯だ。 よい最期だったのだから悲しくはないはずなのに、婆様の面影を思い浮かべたらつうっと涙が零れた。ずっと二人で暮らしてきたのにもう二度と会うことは出来ないのだと思ったら、涙が止まらなくなった。 土の上に伏せていた嵬仁丸が立ち上がり佐助の前に立つと、しゅるしゅると人の形に変化(へんげ)した。 「このような姿ですまぬ」 何も身に纏っていなことを言っているのだろうか。 「だが、今はお前を抱き締めてやる腕が欲しい」 嵬仁丸が両の腕を回して佐助を包み込むように抱き締めた。 「大切なものを失うのは辛いことだ。泣いてよいのだぞ」 その言葉に、涙が堰を切ったように溢れ出す。 「寂しい、もう会えんのが寂しい」 佐助は嵬仁丸の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。 嵬仁丸は佐助の涙が枯れるまで、ただ静かにその大きな手で胸に抱いた佐助の白い髪を撫で続けていた。

ともだちにシェアしよう!