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第39話
「なんかちょっと狡いやね。嵬仁丸様だけおらの心が読めるんは」
佐助が少し唇を尖らせると、嵬仁丸が取り繕うように言った。
「なるべく佐助の心は読まぬようにしている」
「へ?なんで?」
「前に話したように、人は頭と心が食い違っていることが多々ある。佐助はそれが少ないとは感じるが、人が口にする言葉はその者がそれを自分の考えとして表に出そうとしたものだろう?だからそちらを尊重した方がよいのかと思ってな」
「ふーん、おらは別にいいけどね。それより、おらは嵬仁丸様の心ん中を覗きとうなることがあるなあ。例えば、なんでさっきもごもごしとったんかなぁとか」
「もごもご?」
「ずっと狼の姿でおる訳、聞いた時」
おや?今度はちいっと目を逸らさんかった?
「なんね?気になるー。まあ、おらには言いづらい深い事情があるんなら聞かんけどさ」
「いや、そうではないが……この姿でいると……佐助が……」
「え?おらが?」
「お前が……いや、何でもない」
嵬仁丸はもぞもぞと体を動かし反対を向いて伏せてしまった。
「えー?なんね?おらのせいなん?」
佐助は身を乗り出し、もふもふの背中に覆いかぶさるようにしてそっぽを向いた嵬仁丸の顔を反対側から覗き込むが、また頭をこっち側に逸らされてしまう。
むう。そんなんされると余計に聞きとうなるな。
よぉし、これでどうじゃ?嵬仁丸様がこれに弱いんは知っとるんよ。
佐助は嵬仁丸の耳の後ろをしょりしょりと優しく掻いた。最初ぴくぴくっと耳が動いたが、続けているとふぅーんと緩んだ息が嵬仁丸の鼻先から漏れた。
ふふふ、やっぱりね。
次に耳の後ろから片手は首、もう一方の手は顎の下へしょりしょりを移動させると、今度は喉元から小さくくぅーんと聞こえてきた。よぉし、今なら。
「ねえ、教えてくれんの?」
「……佐助が、そのように……毛並みを撫でたり……首に手を回して、抱きついてくるのが……とても気分が良い……人の姿の時は……そういうことはせぬだろう?」
佐助はきょとんとして、手が止まってしまった。すると嵬仁丸もはっと我に返ったように立ち上がろうとするので、慌てて首を抱いて引き留めた。
そうか、言われてみればそうじゃな。嵬仁丸様が狼の姿の時は知らず知らずのうちにおらはどっかこっか触っとったかもしれん。それがそんなに嬉しかったん?
ああ、そうか!
佐助は狼たちの姿を思い出した。狼の群れはとても仲が良い。互いに頻繁に顔や体をすり合わせたり、互いの顔や耳を舐めたり甘噛みしたりして遊んでいる。
じゃけど、嵬仁丸様は他の狼とは主従のような関係じゃから、そんなことし合う相手がおらんかったんかな?
それとも、おっ父様やおっ母様に撫でられたんを思い出して懐かしいんかな?
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