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第43話
嵬仁丸の胸に手を置くと背伸びをするようにして、嵬仁丸の唇に自分の唇をぷちゅと合わせていた。
どくん、どくん、どくん、どくん。
自分の心臓の音が煩い。激しい鼓動のせいかだんだん胸が苦しくなってきて、顔を離した。
「佐助……」
掠れるような声で名を呼んだ嵬仁丸が、酷く真剣な顔でこちらを見つめている。
「あ……嫌じゃったんなら……ごめん……」
ああ、おらったら。
さっき神社で見たあれのせいじゃろか。
けど、おらも嵬仁丸様も雄で番にもなれんのに……
あ、でも、獣たちだってお互いの顔を舐め合うのは雄同士でもやっとらん?そうじゃ、嵬仁丸様が狼の時おらのことを舐めるんと同じ、親愛の情で……
頭がわたわたと自分のしたことに理屈を付けようと大騒ぎしている。
そんな佐助の頬を包むように、嵬仁丸が右手を添えた。
「佐助」
もう一度優しく名を呼ばれると、頭の中の声はしんと静まった。
「だって、好きじゃと思ったら勝手に体が動いとったんじゃもん……」
窺うように下から見上げれば、ふっと嵬仁丸の目尻が下がった。『ああよかった、怒っとらん』と安堵した時には体を抱き寄せられ、嵬仁丸から口付けられていた。
あ……あったかい……
さっきは夢中で気付かなかった自分の唇を包みこむ嵬仁丸の唇の温かさと弾力を感じる。
嵬仁丸様、嵬仁丸様……
唇を優しく吸われているだけなのに、心が嵬仁丸の名を繰り返し呼び、胸がきゅうんと締め付けられる。そのくせ、頭はとろーんと惚 けてしまいそうだ。
唇が離れた途端、息をするのを忘れていてた佐助はぷひゅうという音を立てて空気を吸いこみ、嵬仁丸の胸にくたりと倒れ込んだ。その体を嵬仁丸の逞しい腕が抱き締める。
「はぁ……嵬仁丸様……好きじゃ……」
「佐助……佐助……私も同じだ」
今まで嵬仁丸には何度も好きだと言ってきたが、今日の好きは今までと違う色をしている。
まるで今日結わえて貰った組紐の様だと、佐助は艶やかな緋色を瞼の裏に思い浮かべた。
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