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第46話

「あ、無理に言わんでもいいんよ」 「……佐助、いずれお前には話すことになるだろうと思っていた。私のもう一つの役割にも深く関わっていることだからな」 「もう一つの役割?」 「佐助、前に私が鬼の話をしたのを覚えているか?」 佐助は頷きながらも、唐突に出た鬼という言葉を不思議に思う。 「人が死ぬとき激しい憎しみなんかが残っとると、その魂は無に(かえ)れんで彷徨い苦しみ続けるんじゃろ?そんで、鬼が蔓延(はびこ)ると人心が(すさ)むんね?」 「そうだ。私には……鬼を捕とらえる力がある」 佐助はびっくりして目を見開いた。 「鬼を捕まえるん?嵬仁丸様には鬼が見えるん?」 「ああ。私たちは生き物の精気を糧としてきたから、そのあたりに関わっているのかも知れぬ。私は幼き頃に、父が彷徨う鬼を捕え握りつぶして消し去ったのを見たことがある。だが、私にはそれは出来ぬ。そこまでの力がない」 「そんじゃ、捕まえた鬼はどうするん?」 「この山と隣山の間に谷があり、地底へと続く深い岩の裂け目がある。そこに閉じ込め結界を張って封じている」 「え、そこには今まで捕まえた鬼がいっぱいおるん?」 角の生えたおどろおどろしい形相の鬼たちが無数に(うごめ)く様を想像して、佐助はぶるりと身を震わせた。 「嵬仁丸様はそもそもなんで鬼を捕まえるん?誰かに頼まれとるん?里が荒れんように?」 「……それは……」 そこで嵬仁丸は深い溜息をついた。 「少し古い話になる。何より楽しい話ではないが、それでもよいか?」 嵬仁丸の暗い目に少し不安を覚えながらも佐助は頷いた。嵬仁丸の事ならどんなことでも知っておきたい。 「佐助は(いくさ)というものを知っているか?」 「(いくさ)?」 まるで見当がつかないという顔をしている佐助に、嵬仁丸は下々(しもじも)の者の(あずか)り知らないところで始まる戦というものについて話して聞かせた。 大名や軍、武士など聞きなれない言葉が並ぶそれを、佐助は『要は、獣たちの縄張り争いのもうちっとややこしいやつなんか?』と理解した。だが、続く嵬仁丸の話に、鬼以上に恐ろしいことを聞いた気がして、また身を震わせた。 このところ平穏が続いているが、かつて戦乱の世にはこの辺りが戦の場になることも幾度かあった。 戦と言うものは夥しい数の人が死ぬのだ。武士同士の討ち死にだけではない。歩兵には領内の百姓が駆り出される。 勝ち進んでいる軍は攻め入った土地から米を奪って自軍の兵糧とすることもしばしばだ。兵の下っ端はそれに倣うように無関係の民から略奪をし抵抗するものを切り、女を犯し、時には里に火を放ったりもする。 無残な死に方をするものが多ければ、鬼になってしまうものがおのずと増えるのは分かるであろう。 やっと戦が終わっても、近しいものを殺され嘆き悲しむ者たちに残されたのは、荒らされた田畑。その上彷徨う沢山の鬼に、里のものの心は荒れ、今度は里の者たちの間で諍いが起こり始める。 そんなことが何度となく繰り返されてきたのだ。

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