94 / 115
第94話
撃たれた左足がいうことをきかず、何度も転びそうになる。それでも少しでも遠くへ逃げて嵬仁丸の足手纏いにならないようにせねばと必死で進む。森へ辿り着けば。嵬仁丸と森に逃げ込めば、身を隠す場所もあるだろうし、きっとあの鉄砲とかいう武器では撃ってこられない。森の獣たちの協力を得られるかもしれぬし、血止めの薬草で手当ても出来る。
ズバババーン!
また撃った!と戦慄が走ると同時に、右肩に衝撃を受けて激しく転倒した。左手で肩を押さえると手にべっとりと生温かい血が付いた。
嵬仁丸様!嵬仁丸様は無事なんか!?
倒れたまま首だけ動かしてもと来た方を振り返ると、嵬仁丸が勢いよく鉄砲隊に向かって走って行くのが見えた。
鉄砲を持った侍は2人から6人に増えている。しかしそれ以上に恐ろしいことに気が付いて佐助は悲鳴を上げた。
鉄砲隊の6人は一定の間隔を空けて一列に並んでいるが、一人おきに違う動きをしている。長筒を構えている者、筒の先から何かを詰めている者が交互になっているのだ。つまりこれは一度撃ってから次撃つまでに時間が掛かるので2交代制にして攻撃の間があかぬようにしているのでは?
その上、こちらを向いていた筒先が方向を変え、嵬仁丸に狙いを定めようとしている。嵬仁丸様が危ない!佐助は痛みも忘れて跳ね起きた。
そっちは駄目じゃ、こっちを狙え!おらを狙え!
「嵬仁丸様―!逃げてー!!」と佐助が叫ぶのと、次の銃声が鳴り響いたのはほぼ同時だった。
狙いを逸らすためか左右に進路を振りながら走っていた嵬仁丸の体が、弾かれたように吹っ飛び、どさりと地面に倒れたのが見えた。
撃たれた!!
心の臓がぎゅっと縮む。
だが嵬仁丸はむくりと起き上がると再び走り出し、とうとう鉄砲を持った侍の一人に飛び掛かった。咄嗟の判断がつかぬのか、仲間に当たるのを恐れているのか、残りの5人は鉄砲を構えず後じさってうろたえている。だが、一度に6人も倒せぬし、鉄砲隊を指揮していた侍が刀を抜いて嵬仁丸の方へ駆け寄っていく。
なんとかせねば!
佐助は唇に指を当て、鋭く指笛を吹いた。すぐに見張り役や武士たちを襲っていた狼たちが佐助のもとに走り寄る。琥珀 を長 とする群れだ。
『ええか、よう聞いてくれ。琥珀は嵬仁丸様を切ろうとしとる侍の腕を剣が持てぬようにしてくれ。他のもんは、長筒を持っとる奴らの腰にぶら下がっとる小箱と胸に下げとる小瓶を残らず奪って川へ捨ててくるんじゃ。分かったな?行け!』
8匹の狼が、勢いよく嵬仁丸のもとへ走り出した。
ともだちにシェアしよう!