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第96話
『嵬仁丸 様!』
佐助は足を引きずりながら、駆け寄った。
『佐助、無事か?』と尋ねる嵬仁丸の姿は思わず言葉を失うほど痛々しかった。最初に撃たれた脇腹は勿論のこと、後足にも銃創がある。そして背中には刀で切られた傷が2か所ぱっくりと口を開け、どこからも夥しい血が流れ出ている。そして、息が荒く乱れ足取りに力強さが無い。
『嵬仁丸様……帰ろう、皆で山へ帰ろう。取り敢えず森まで逃げればきっとなんとかなる』
『ああ、そうだな』
『琥珀 、他の群れも引き上げるように呼んでくれ。嵬仁丸様を護 りながら森まで行くんじゃ』
琥珀の遠吠えに応え、森に向かう一行に一匹二匹と狼たちが集まって来る。
『ほら、もう森はそこに見えとる、皆頑張れ』
そう呼びかけ励ましながら、佐助は隣を歩く嵬仁丸の体がぐらぐら揺れているのか自分の体がふらついているのか良く分からなくなってきた。
……血を失い過ぎたか……?
さっきから足先や手先の感覚がおかしい。呼吸が浅い。立ち止まって少し休みたい。いや、駄目だ、森に辿り着くまでは……止まるわけにはいかない……。
先程からだらだらと止まらぬ冷や汗をぬぐったとき、嵬仁丸の体が大きく傾 ぎ、それを佐助が支える間もなくどさりと倒れてしまった。
『嵬仁丸様!』
嵬仁丸の息がハッハッと荒い。助け起こそうと屈みこむが、右肩を撃たれている佐助の腕にも力が入らない。嵬仁丸も立ち上がろうとするのだが、すぐにまたくずおれてしまう。
『佐助……すまぬ、先に行ってくれ』
『嫌じゃ、置いていけん』
『……佐助……私はもう……お前だけも逃げろ』
『嫌じゃ!……そんなん、嫌じゃ……森はすぐそこじゃ、もう一度立ってみて。おらに寄り掛かってええから。ほら』
嵬仁丸が頭をもたげ前脚を踏ん張るがどうしても腰を持ち上げることができない。苦し気にハッハッと息を吐き、また前脚を折って倒れてしまう。きっと血を失い過ぎた上に精気も足らぬのだ。谷の結界を張りなおした時点で既にたくさん消耗していたに違いない。
この大きな体を運ぶのは狼たちにも無理だ。
ああ、いったいどうすればいいのだ?
『佐助……お前だけでも山へ帰れ。お前が帰ってやらねば三日月が気に病むぞ。お前を一人にしてしまったことを酷く悔いていたからな』
『そんなこと……嵬仁丸様こそ皆が山の主の帰りを待っとるよ』
辛そうに喘ぐ嵬仁丸を前に、佐助は必至で考えを巡らせる。
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