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第97話

『なあ嵬仁丸様、少しの間、嵬仁丸様はここで休んどって?狼たちに護衛を頼んで行くから。おら、森までひとっ走りして、血止めと痛み取りの薬草を探してくる。それから、精気を補える花や果実も採って来る。それを食べて手当てをすればきっと大丈夫じゃ』 『戻って来るな、お前は逃げろ』と繰り返す嵬仁丸に、佐助は『心配せんで、すぐに戻って来るから』と頬擦りをした。 『皆も疲れとるだろうけども、おらが戻ってくるまで嵬仁丸様を頼む。もし侍たちが来たら、もうひと踏ん張りして遠ざけてくれ』 オン、オンと応える狼たちに嵬仁丸を託し、佐助は立ち上がった。 なんとしてでも薬草と精気のもとになるものを探してこねば。そう勢い込んで森に向かった佐助だったが、いくらも進まぬうちにがくりと膝が崩れ転んでしまった。起き上がって再び歩き始めるものの、数歩もいかぬうちにまたかくんと膝の力が抜け、土の上に突っ伏してしまう。 『佐助殿!』 『大丈夫か?』 数匹の狼が心配そうに駆け寄って来る。 『だい……じょぶ……』 起き上がろうとするのだが、上手く手足に力が入らない。 早く森へ行かねば、嵬仁丸様の命にかかわるのに。こんなところでへばっている場合ではないんじゃ。 そう焦るのに、体が言うことをきかない。 『佐助』 嵬仁丸が前脚だけで這って倒れたままの佐助ににじり寄った。 『佐助、お前……生気が弱まって……血を流し過ぎたか』 そうか……おらも限界がきてしもうたんか…… 『ん……そうかも知れん……けど……実を言うと、撃たれる前から物が二重に見え始めとったん。それがどんどん酷うなってきとる……きっと頭を殴られたんがいかんかったんじゃろな……』 佐助は腕を伸ばして嵬仁丸の前脚に触れた。 『嵬仁丸様、ごめんな。全部おらのせいじゃ。おらが油断して捕まったりするから……最後まで大人しいふりしとけばよかったのに、神官や武家のもんらを怒らせるようなこと言うてしもうたから……おらのせいじゃ。嵬仁丸様や狼たちをこんな目にあわせてしもうて、ほんとにごめんな』 『お前は何も間違ったことはしていない。人柱などあってはならぬことだし、(せがれ)を人柱に取られた婆様に育てられたお前が、許せぬと憤った気持ちも分かっている』 『そんでも、嵬仁丸様をこんな目にあわせるくらいなら、おらが一人で人柱になって死ねばよかったんじゃ』 佐助の(まなじり)から涙がこぼれ落ちた。

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