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第98話

『何を言う。お前は私の(つがい)だろう』 嵬仁丸の舌が優しく佐助の涙を拭う。 『お前は何も申し訳なく思う必要などない。むしろ、人狼の生き残りでありながら、たった一人の番すら(まも)ることが出来なかった不甲斐ない私を許してくれ』 『そんなん……助けに来てくれただけで十分じゃ。嬉しかった』 佐助は嵬仁丸の首元に自分の額を擦り寄せた。 『お前が私の知らないところで知らぬ間に命を落としてしまうより、こうやってふたり寄り添って最期を迎えられるのは幸せなことかもしれない。それに、私もこれでお前のいない残りの時間(とき)に怯えずに済むのだ』 嵬仁丸が前脚で佐助の体を抱き寄せた。 『お前は虚しく時間が流れていくばかりだった私に光と温もりをくれた。お前と暮らした日々は幸せと喜びに満ちていた。愛しているぞ、佐助』 『おらも。どんだけ幸せだったか言葉では尽くせん。嵬仁丸様、大好きじゃ』 佐助は感覚のなくなってきた手で嵬仁丸の体にしがみついた。 いつもは力強い嵬仁丸の鼓動が次第にゆっくりになってきている気がする。もしかすると自分もそうなっているのかも知れない。 『佐助……私たちは番だ。ふたりで一つだ』 ああ……おらはなんて幸せもんなんじゃ…… 何よりも大切な嵬仁丸様に溢れんばかりの愛情を注がれて、最後の最後にまでこんな風に言うてもらえて…… 嵬仁丸さまに出会えてよかった。番になれてよかった。 嵬仁丸様とおらは、ふたりで一つ。 ふたりで、ひとつ…… 目を閉じ、嵬仁丸の言葉をうっとり噛み締めていた佐助の頭の中に、ぽっと小さな(あかり)(とも)った。 あ……今、なんか…… 『嵬仁丸様……?』 『どうした』 「……嵬仁丸様……おら、ええことを思いついたかもしれん」 思わず声に出して呟きながら、佐助は自分の閃きに嬉しくなって目を輝かせ始めた。

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