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第99話

『嵬仁丸様、嵬仁丸様!今すぐおらの魂を喰うんじゃ。このままでは二人とも助からん。けど、おらの命を喰えば精気を補えて嵬仁丸様はきっと動けるようになる。少なくとも森までは辿り着けるじゃろ。森には精気を宿した木がいくらでもあるし、狼たちに狩りは無理でも花や果実を集めさせればええ。精気が満ちればきっと怪我の具合もようなる。元々、嵬仁丸様は怪我の治りも恐ろしく早いじゃろ』 『……』 『さあ、早う!おらの命がこれ以上擦り減らんうちに!元々、最期はおらの魂を受け取ってもらう約束じゃったろ?嵬仁丸様が喰ってくれれば、おらは嵬仁丸様の一部になって一緒に山に帰れるんよ』 さらに佐助は瞳を輝かせ始めた。 『そうじゃ!嵬仁丸様が魂を喰った後の体は狼たちにくれてやればええ。ふふ、そしたらおらは狼たちの糧にもなって、次の赤ん坊の一部にもなるかもしれん。そうすれば、おらも狼になって皆と一緒に山を駆け回れるんじゃ』 『……佐助……お前は酷なことを言う……』 嵬仁丸が苦し気に呻いた。 その時、二人を取り囲んでいた狼たちがグルルルと低い呻り声をあげ始めた。 『主様、佐助殿、人が近づいてくる』 どこに隠れていたのか、逃げ出していた人足たちが湧いてきて、こちらを窺うようにそろりそろりと近づいてくる。手足を負傷した武士たちもあちらこちらで立ち上がり始めていた。 『嵬仁丸様、早う!じきに取り囲まれてしまう!早うおらの魂を喰って森へ逃げるんじゃ!忠誠心の強い狼たちは決して嵬仁丸様を置いてはいけん。このままでは狼たちも皆、殺してしまうことになる!』 佐助は髪を結わえていた緋色の組紐を解いて、嵬仁丸の前脚に巻き付けた。 『目に見える()りどころがいるなら、これを大事にしてくれたらええ。けども、おらの体はここへ置いていくんじゃ。それでしばらくは奴らの気を引ける。その間に狼を連れて逃げて。お願いじゃ、おらを大事に思うてくれるんなら、おらの最期の頼みを聞いて!!』 そう言って紐を巻き付けた嵬仁丸の右足を、自分の胸にあてがった。

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