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第101話

ええっ!!鬼!? 嵬仁丸様のおっ父様!? いったいどういうことじゃ?おらの目に見えることもびっくりじゃけど、結界を張られた墓に封じられとったはずじゃろ?それに、なんで今、ここに? 周りの人間は虫や鳥の大群に驚くばかりで、誰も黒い影のことを口にしていないから恐らく見えていないのだ。だが、突然雷が落ちたかのように低く大きな声がビリビリとあたりに響き渡り、人々は耳を押さえ、怯えてひれ伏した。 ーー愚か者め!ーー 佐助も思わず嵬仁丸に縋りついた。 『……死してなお、なんという力だ……いや、私が封じた時よりも力が増している。私の力が弱まったせいで結界が破れたに違いない。佐助、すまない。やはり私はここまでのようだ。父は、(おのれ)を墓に封じた私に積年の恨みを晴らしに来たのだろう』 そんな……。 佐助は嵬仁丸の父親に対する複雑な気持ちを理解している。 嵬仁丸は母親を亡くした時に、同時に父親も失ったように感じている。愛する番を殺され狂気に囚われた父の目にはもはや自分は映っておらず、母を護れなかったことを言外に責められているとすら感じていた。そのうえ、里のものたちと争った末に毒殺され、激しい恨みから鬼にまでなってしまった父親を哀れに思いながら、自らの手で結界の奥に封じたことで父を裏切ったようにも感じている。 だが一方で、おそらく純血の人狼であったであろう父を、豪胆で強大な力を持ち山の神と崇められていた父を、尊敬し憧れてもいたのだ。だからその愛を失った寂しさや、父には遠く及ばぬ自分の力の頼りなさを卑下するような気持ちも抱えている。 嵬仁丸様の胸の奥に影を落とし続けている硬いしこり。おらにはどうしてあげることも出来んから、ただ寄り添うだけじゃと思うとった。けど、こんな形で親子が再び対面することになるとは……。 天空の人形(ひとがた)がおもむろに片腕を大きく振り上げた。 『佐助、愛していたぞ』 嵬仁丸が愛おし気に佐助に口付けた。 鬼が腕を大きく振り下ろすと同時に、周りをまわっていた帯が一斉にざあぁと地に向かって下りてきた。 『嵬仁丸様!』 佐助は嵬仁丸の体を抱きしめ、きつく目を閉じた。

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