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第103話<鬼伝説>
トントン カラン カラン
トントン カラン カラン
山のふもとの小屋から規則的な音が響いてくる。
トントン カラン カラン
トントン カラン カラン
機織り機の音を、周りの田の青々とした稲の上を撫でていく風が運んでゆく。
「さぁて、そろそろ終 いにしようかね。今日も皆、よう頑張ったの。新吉が瓜を冷やしてくれとったで、隣で食べておいき」
「はぁい」
ばらばらと小屋を飛び出した少女たちが、庭を挟んで隣にある一回り小さい家屋の戸口へ回る。
「新吉どーん、瓜ちょうだーい」
「おぅ、終わったんか。庭でちょっと待っとって」
「はぁい」
少女たちはきゃっきゃと笑いながら建物沿いに並べられている縁台に腰を掛ける。
大きな瓜を入れた木だらいを持った男を連れて庭にやって来た新吉は、生まれつき右手の指が4本しかなく、片脚がもう一方に比べて6寸ほども短い。そのせいで一歩進むたびにぎっこんばったんと体が大きく傾かしぐ。
「ひー、ふー、みー、よー……お、今日は婆様も入れてちょうど8人じゃ。切りやすいぞ」
まだ少年の面影が残る新吉は、傍らの男に「三郎どん、このように切れば全部同じ大きさに切れるじゃろ?」と丁寧に指し示してやる。少女の一人が、「おしの婆様、呼んでくる!」と元いた小屋の方へ駆けて行った。
たらいの中の瓜と向き合った三郎は慎重に慎重に包丁を当てる。三郎は、もうよい大人なのだが、言われた通りのことを寸分違わぬように出来ぬと泣いて癇癪を起こす。だからいつも、ことを進めるのに恐ろしく時間が掛かる。だが、ここにいる者たちは皆そんなことはよく分かっているので、三郎の納得がいくように瓜が切り分けられるまでおとなしく待っている。
「ねえ、おしの婆様、今日もなんかお話して?」
「ああ、ええとも。今日はなんの話にしようかねえ」
「双子山の鬼の話がええな」
「うん、それがええ」
「ほほ、皆、これが好きじゃのう。そんならいくかの……むかーしむかし、とある片田舎にお椀を二つ並べたように連なる山があってな……」
※6寸……およそ18㎝
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