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与六さま
おなごに全く興味がないあの御中城様が、なんと側室を迎えたと、あっという間に城内に広がった。
寡黙な景勝にとって、おしの次の存在は心地よいものであった。どんな話しでも次は黙って聞いてくれる。膝を貸せと言わなくても貸してくれる。何より次の笑う顔がいい。弥勒菩薩の様だと揶揄し、片時も離さず寵愛した。
当然ながら与六は面白くない。そんな与六を直江信綱ら与板衆の臣下が嗜めた。
「景虎様には道満丸様を始め、お子が四人もいるのだ。殿も二十三、跡取りの一人ぐらいおいでになられても良い年だろう」
景虎は、景勝の義兄にあたる。北条氏康の七男として生を受け、越相同盟により人質として越後に赴き、御屋形様の養子になり、景勝の妹華姫と再婚し道満丸をもうけ、側室、妙との間には一男二女をもうけている。関東一の美男子と謳われた美貌で城内の女性達を虜にしている。
「男子を産んでくれればそれで良いではないか」
与六はその言葉に苦虫を潰した様な面差しを浮かべた。
一月後。
宿願たる上洛を果たすための総動員の令が発せられ、景勝は、家臣と共に武器、弾薬、馬匹、兵糧の準備に追われ、次は一人で二の曲輪で景勝の帰りを待つ日が多くなった。
そんなある日、次が忽然と姿を消したのだ。景勝は四方手を尽くし次を探したが消息はようとして掴めなかった。
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