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御中城様をお慕い申しております

驚く次に、与六は懐刀を握りしめ突進していったが信綱に止められた。 「与六殿、殿のややを【身籠った】次に刃を向けるおつもりか?ほら見よ、殿の幸せそうな顔を。何とも仲睦まじい夫婦(めおと)ではないか」 与六は次の方に目を向けた。 「次から離れよ!ごのげすども‼」大声を張り上げ、素足のまま外に飛び出し、濡れる事も厭わず次の許に駆け寄る景勝。【茶坊主と小姓頭の首根っこを鷲掴みし引き剥がし泣きじゃくる次の小さな肩をしっかりと抱き寄せた。】 「大丈夫か?すまぬな一人にして、寂しかっただろう、怖かっただろうに。もう決して離さぬ」 【愛おしいそうに次を強く抱き締める景勝。】 「次に嫉妬するそちの気持ちも分からない訳ではない」 「直江殿」 与六は目を大きく見開き、それから一筋の涙をした。 「御屋形様、某が親代わりになります故、どうかこの者を殿の側室としてお認め下さいませ」 場を収めたのは信綱であった。ややがいるなら仕方ないと、御屋形様は小姓に命じ自ら脇に指していた懐刀を次に与えた。これにより、次は正式に景勝の側室として認められる事になった。 【人】の温もりがこんなにも心地いいとは。遊女宿に売られるまでの記憶は何一つない。他人に甘えず一人で歯をくいしばって、どんなに辛くても生きてきた。心はいつも曇天の空の色。それが、殿に出会って全てが変わった。 (す、い、て、お、り、ま、す) 景勝と二の曲輪に戻った次は、その手を取り、掌に指で見よう見まねで覚えた平仮名を一文字ずつ書いていった。最初こそ目を丸くしていたが、やがてそれは無上の喜びへと変わった。 「俺もだ、次」 側に与六が控えていたのも構わず、景勝は次を抱き寄せると柔らかな唇に吸い付いた。

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