7 / 8

三郎主景虎

そして三月十四日。越後の孤高の龍、上杉謙信が急逝し、景勝と次の運命の歯車が大きく狂い出した。のちに御館の乱と呼ばれる事になる跡目相続を巡る内乱が勃発したのだ。 景勝は次を残しいち早く実城を占拠するため二の曲輪を出立した。それが、次との最後の別れになるとも知らずに。ここ三日体調が優れない次は、お藤らに守ながら実城を懸命に目指したが、辿り着く前に景虎の手勢に掴まった。景虎の前に引きずり出された次。 「ほう、そちが景勝殿の愛妾か」 顔を見上げると噂通りの美男子が目に飛び込んできた。 か安心しろ」 次は景虎のその言葉に耳を疑った。冗談かとも思ったが表情は真剣そのもので。目を丸くする次の腹を優しく擦った。 「腹のややに妬かれぬ程度にな」 豪快に笑う景虎。【取り囲む与党諸将の好奇の視線に晒され、次は込み上げてくる涙を必死で堪えた。 その日の夜。景虎陣営の最前線陣屋になった二の曲輪の寝所で次は、景虎に組み敷かれていた。今朝方まで側にいてくれた景勝はもういない。腫れるまで口を吸われ、襦袢の裾を捲り、玉のような肌の上を景虎の手が下へと滑り落ちていく。次は敷布をきつく握り締め、はらはらと涙を流し半陰陽に産まれた己の宿命を呪った。 「三郎様」 襖がすっと音もなく開いて一人のおなごがつかつかと入ってきた。 「何用だ華」 「ややが腹におる兄上の側室に伽を命ずるなど、人の道に外れております」 おなごと共に寝所に入ってきたお藤がすっと次の元に駆け寄り、乱れた襦袢を直し上掛けを肩に掛けた。 「今宵は華に免じ諦めよう」 やれやれといった面持ちで景虎はむくっと体を起こすと寝所を後にした。 「お次様、この御方が三郎様の御正室のお華の方様で御座います。御中城様の妹君であられます」 お藤に言われ次は慌てて姿勢を糺すと深く頭を下げた。 「殿が済まぬ事をした。この通りじゃ許して欲しい」

ともだちにシェアしよう!