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第10話

男と言えども、かなりの美青年であり、酔って色気溢れる響に見つめられると、誰しも照れるようだ。暫くじっと顔を見続けた後、のっそりと口を開いた。 「あんたもう少し眉毛と前髪ととのえたらぁ〜? 俺がやってやるよ〜」 そう言った響は、自分の横の席に置いていたリュックから、少し大きいポーチを取り出しハサミを指に装着した。 「や、やめてくれ!!」と席を立つ中年の男だったが、「お客さん、やってもらいなよ、コイツに弄られたらイケメンになるよ〜。コイツ、雑誌にも載ってるカリスマ美容師だからさぁ。しかも無料でするなんて酔ってる時だけだよ〜」とやっさんがオススメしたので、男は黙って自分の顔を差し出した。 「カリスマ美容師?! そんなカッコええ別名持っとんか……!」 響の素性が一つ分かった弦であった。コソッとカウンターの下で検索をかけてみると、載ってる載ってる。かなりの有名人のようで弦は驚いた。 「へぇー! さっきと全然違う! お客さん5倍くらいイケメンになったね!」 カウンターに潜る弦の頭上から聞こえた、やっさんの声を辿って顔を出してみると、5倍は言い過ぎだが、本当に2倍くらいイケメンになった客がいたのである。 「ついでにメイクもしてあげるよ〜」 そう言って、響がその客にメイクまでし始め、イケメンが更にイケメンになると思いきや、バカ殿になったのでバーは大いに盛り上がったのだった。 響を目当てに来る女性客も多く、響が酔っ払った頃にSNSで拡散されるため、バーが忙しくなるのはいつも夜中だった。

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