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第11話
「はー!! なんやこれ、めっちゃ忙しいやんけー!!」
バタバタとアイスを取りに行ったり、割ったり、グラスを洗ったり、響が切った客の髪の毛の処理等、「なんもおもんないわー!!」と嘆く弦であった。
朝5時、客足も遠のいた頃閉店である。
酔いつぶれた響を店のソファに寝かせ、ある程度の片付けをしてから帰るのが、やっさんの日課。
「響ほっとくん?」
「こいつここの鍵持ってるから勝手に帰ってるよ。お前はまだ掃除が残ってんだからな! 6時までの時給つけるからちゃんとやれよ」
「ええ?! 俺やっさんの家知らん!」
「住所送っとくから」
帰ろうとしたやっさんは、何かを思い出し弦に耳打ちをした。その言葉に少しビックリした弦であったが、まぁ人間酔うとそんなものだと心に閉まった。
やっさんが帰った後、弦は店の中をひたすら掃除しまくって、ほうきで掃いたゴミをまとめていた。潰れている響が寝返りを打ち、ソファからその体を床に委ねると同時に、ゴミに顔を突っ込んでカオスな状態になっていた。
「ああーー!! お前何やっとんねん!! ゴミに顔突っ込むなー!!」
響の上半身を抱き上げ、ゴミを丁寧にはらう弦はマジマジと彼の顔を眺める。
いつも隠している片目が見えて、アルコールで赤みを帯びた頬がますます色気を醸し出していた。
「こいつ、めっちゃべっぴんやんけ。ずるいわー! 同じ人間とは思われへん。別世界やこんなもん!!」
スっと目を開けた響が半目で弦を見つめる。
「お、大丈夫かお前」
彼の長い指が、弦の髪の毛をスっと通ると同時に唇にフワッと何かが触れる。掃除が大変ですっかり忘れていたが、やっさんが帰り際に耳打ちしたのが「あいつキス魔だからな」だった。
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