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scene.2 秘密は明かす為にある!?

『…ただいま』  玄関先から芝崎の声が聞こえてきたので、俺は彼を出迎える為に部屋を出ていった。 「お疲れ様です、お帰りなさい」 「航太はもう着いてますか?」 「はい、居ますよ。今は部屋で勉強をしてるはずです」 「じゃあ一度顔を出しますね」 「…護さん。ちょっと聞いてもいいですか?」 「何ですか?」 「航太君っていつもあんな感じなんですか?」 「どういう事ですか?」 「いや、それが…」  俺は、航太を駅に迎えに行ってからの事の顛末を芝崎に説明した。 その話を聞いた芝崎はと言うと、にこやかに笑って答えたのだ。 「ああ、そういう事ですか。…彼は少し変わった趣味の持ち主なんですよ。僕とみわ子さんが離婚したのがちょうど航太が3歳の時で、僕はその頃にはもうこのマンションに居ましたから、彼の成長過程にはあまり関わっていなかったんですよね…。申し訳ないことに」 「じゃあ、どうしてあんな感じになったのかは分からないってこと?」 「でも時々は僕もみわ子さんの家に行ってましたから、実は完全に航太と離れてしまった訳でもないんです。…もしかすると、僕の母親が少し関わっているのかも知れませんが」 「…護さんのって…文子さんがって事ですか?」 「ええ。みわ子さんが仕事に行っている間は、いつも僕の母が航太の世話をしていたんですよ。…で、その時にたまたま見つけた昔のビデオか何かを見て航太が喜んだのを見て、母がならば同じ事をさせてみようと思ったらしくて…」 「…ごめん護さん。…文子さんはあいつに何のビデオを見せてたの?」 「母は少し変わった感性の持ち主でしたからね…。恐らくは深夜帯のアングラ系バラエティとか、そういうものじゃないんでしょうか」 「…ああ、そういう事か。…てか、同じ事させるってどういう意味!?」 「うーん…例えるなら、顔立ちの綺麗な男性に女性のようなメイクと女性の格好をさせて街を歩くロケとかそんな感じでしょうかね?」 「…はあっ!?」 「でも所詮は子供ですから。そういう事をさせた所で特に周りから責められるとかじゃなくて、ただ『あらこの子可愛いねー』っていうくらいにしかならなかったんでしょうね」 「…どういう神経してんだよ…。」 「でも、結真君も昔よくやられてませんでしたか?」 「…それ以上は言うな!俺にそういう趣味はない。…というか思い出したくない」 「僕はけっこう好きでしたよ?…あの時の結真君の恥ずかしそうな顔が可愛くて、今でも忘れられませんけどね?」    そうだった。俺は昔、よく芝崎の母親である文子(ふみこ)さんと遊んでいた記憶がある。 その頃から、文子さんというのはとにかく明るくて面白い人で、だが少し変わった感性の持ち主だった。人が苦手であまり外に出ようとしなかった俺を、文子さんは何とかして外出させようと、俺に女の子の格好をさせてごまかしつつ、近所の公園やスーパーマーケットなんかに連れ出そうとして、恥ずかしがって抵抗する俺を見ながら楽しそうに笑っていた。それはつまり、その時の文子さんのDNAを現在の孫である航太も受け継いだという事だろうか。 「それにあの人は、どういう訳か僕の若い頃のビデオとかも隠し持ってましたからねぇ…」 「え、何そのすっげー面白そうな話。…聞かせてよ?」 「…僕としてはあまり突っ込んで欲しくない話なんですけど…。」 「…あ、もしかしてあれか。カリスマ理美容師が云々みたいな?」 「結真君っ!?」 「あーごめんごめん!…前に少し聞いてたんですよ、殿崎さんから」 「…はあ…。あいつ、そんな事まで結真君にバラしてたのか…」 「…今、何か言いました?」 「いいえ、何でもありません」  珍しく芝崎が不機嫌そうな顔を見せてきたので、俺はそれ以上の事は聞こうとはしなかった。…だがこれで喧嘩両成敗。…俺も、そして芝崎にも、隠しておきたい秘密の1つや2つはある。それが例えどんなものであったとしても、お互いに納得できる話が出来るようになるまでは、無理に相手のテリトリーには飛び込まない。  それが俺達二人の間に図らずとも存在する、暗黙の了解のようなものなのだ。        

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