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scene.3 疑惑の足音

 航太が俺たちのマンションに来てから2日。 今日も俺は芝崎が仕事に出かけている間に、留守を守りながら航太の面倒を見ていた。  航太の高校受験日が2日後だと言うので、俺はリビングでテレビを見ながら追い込みをかけている彼の勉強の様子を眺めていた。 「…うわぁ…何か難しそうな感じだねー?」 「そうですか?」 「何かもう記述証明法の文法とか見てるだけで頭痛くなりそう…」 「でも高校受験のテスト問題って、大体は学校の授業で教えてもらっているものの応用表記みたいな感じなんですよね。だから真面目に授業を受けていれば、ほとんどの問題はある程度は解けるんですよ」 「ほう…そういうもんかね?」 「まあ、オレの場合はそんな感じですね。時々ヤマ賭けとかしたりすることもあるし」 「ヤマ掛け!?それって答えが間違ってたりする事もあるんじゃないの?」 「ごく稀にですけどね。あまり外した事もないですけど」 「そうなの?じゃ、航太君は頭が良いんだ。すごいね」 「そうですか?…ああ、でも学年ベストのトップテンくらいにはなってるかも知れないですね。…結真さんはどうだったんですか?」 「え、俺?…理由あって、中学校はあまりまともに通えてなかったんだよね。けど、自分なりには勉強してたかな。だから高校は通信課程で取って、高卒資格までは何とか」 「へえ、そうなんですね…」    航太は、それ以上の俺の話は無理に聞いてみようとは思わなかったようだ。 そういう所の気の回し方を見ていると、やはりこの子は芝崎の血を受け継いでいるんだな…と、改めて彼が息子であると実感した。  俺は少し気になっていた事を聞いてみようと、彼にこんな質問を投げかけてみた。   「そういえば、航太君は将来何かやりたい事とかってある?」 「今の所は特に。まだゆっくり探している所ですよ」 「お父さんやお母さんみたいに理美容師になるつもりもないんだ?」 「それも選択肢の一つにはしてますけど、何も無理して同じ仕事に就かなくてもいいと両親からは言われてるので、何か違うものも探してみようかと…」 「へえ、例えば?」 「そうですね…服飾関係とかもいいかなって。自分のイメージを生かした洋服とかを作ってみたいと思う事はありますよね。オレ、見た目がこんな感じじゃないですか。だからなかなか自分のイメージに合う洋服を探すのが大変で…」 「そうなんだ。…ところで航太君。君が同性愛者だって事、みわ子さんたちは知ってるの?」 「さあ…どうなんでしょう。オレはカミングアウトした事はないんですけど…もしかしたら父の方は薄々気付いているかも知れませんね。以前お付き合いしていた方が男性だったとも聞いていますし…」 「…航太君が?」 「いえ、父の方ですね。その方が先日亡くなられたとも聞きましたから」  ああ、そうか。この子は芝崎と殿崎の関係の事も知っているんだ。 ではやはり、俺が現在その芝崎とそういう関係になっている事についても、もしかしたら気付いているのかも知れないのだと思った。それはつまり、先日の彼のあの発言は子供特有の素朴な疑問という訳でもなくて、本気で俺を狙っている可能性もあると言う事か。    芝崎がそれを知ったら、あいつはどうするんだろう…? いやそれ以前に、何故俺のような人間がこんなにも同性に気に入られてしまうのかという根本的な理由を考える方が先か。  俺は、航太のように完全な同性愛者という訳ではないが、かと言って芝崎のようなバイセクシャルという訳でもない。偶然とはいえ本当に好きになってしまったのが、たまたま子供の頃から憧れて慕っていた幼馴染の芝崎だったという事だけなのだ。  航太は先日初めて会った時、俺の後ろ姿が綺麗だと言っていた。自分の背中を意識するなんて事もこれまではあまり無かったが、彼にそう言われて少し嬉しかった自分が居た事もあながち嘘とは言えない。  ならば本当の俺は…?…俺は本当に芝崎の事を愛せているんだろうか? ただ彼の優しさに甘えていてしまっているだけじゃないのか?と、奇しくも彼の実の息子である航太に、それを教えられてしまったような気がした。    

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