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scene.11 チョコレート・フィロソフィ ーphaze.2ー

 ――店舗裏のバックヤード。 「…まさかこんな形でこのソファーベッドが役に立つ日が来るとは…」 「…え!?」 「実はこれ、当初はいざという時の仮泊まり用に支度したものなんですけどね…」  俺が今までただの少しデカいソファーだと思っていたものを、芝崎は器用に形を整えてベッド仕様に組み替えた。そしてそのまま再び俺の上に覆い被さってくる。 「…護…ちょっと待って。…たまには俺にもさせて…」 「…えっ?」 「さっきの仕返し。あんな事されて…俺がどれだけ恥ずかしかったか、あんたにも思い知らせてあげます」 「…結真君…。」 「俺だって男ですからね。…あのまま好き放題やられっぱなしってのは癪に障る」 「…そうですか?…いえ、僕は別にどちらでも構わないんですが…」 「…ただし、俺も慣れてる訳じゃないから少しくらい失敗しても許してください」 「…結真君がしてくれるのなら、喜んで」  芝崎が肯定の意味を込めて優しく微笑んできたので、俺はゆっくりと芝崎の下衣をずらして、その中に隠されたものを露わにする。逆の立場になって初めて目にした彼自身は、さっきまでの行為の影響なのか、僅かながら勃ち上がりかけているようだ。  そして俺は、首をもたげかけている芝崎のものに身体を近づけ、ちょうどいい位置を探りながらそのまま口の中へと含んだ。 「…!」  瞬間的な刺激に反応して、芝崎が少し顔をしかめた。それと同時に、その手が俺の頭を引き寄せて自分の下半身に押し付けてきたので、彼が感じているのは恐らく痛みだけではないのだろう。もちろん、芝崎のその行動が無意識に行われているのだという事は、今までの経験から考えて俺も何となく理解が出来た。 「…ん…う…っ…む…」 「…結真君…。…とても…良いです…」  俺の名前を呼ぶ芝崎の声に、心なしか甘えて濡れた感じが交じる。 こんな彼の声もまた、逆の立場でなかったら聞くはずの無かったものだ。その声をもっと聴きたくて、俺は更に動きを早くする。そうする事で彼の声はもっと甘くなり、そして僅かながら喘ぎのような要素も垣間見えてくる。押し付けられた手に力が込められ、自然と俺は深く咥え込む形になった。…すると突然、芝崎から身体を突き放された。 「…護さん…?…やっぱり駄目かな…?」 「…そうじゃ、なくて……。…これ以上はもう……許してください…」 「……俺のフェラ、気持ち良くなかった?」 「…いいえ、逆です。…このままだと…本当に君の口の中で達って…しまいそうなので…」 「……そうなんだ。…良かった。…じゃあ、そろそろいいかな…。…体位、変えても良い?」 「…良いですよ」  そう言った芝崎は黙って俺と体位を入れ替え、今度は俺が芝崎の上に乗る形になった。 その表情は緊張で少し強張っているようにも見えたけど、俺はゆっくりと彼の反り上がったものに腰を落として、自分の孔の中に穿っていった。 「…うぅ…っ……ああ……深い……」 「…結真君…そんな事、しなくても……っ!」 「…っく…う…いいんだ…。…俺が…そうしたいんだから…っ……」 「…結真君…。…無理は…しないでくださいね…?」 「…ん、大丈夫…。……動くよ…護…」  俺は騎乗位で芝崎自身を受け入れ、自分が最も感じる場所を探りつつ、ゆっくりと腰を動かしていく。俺の下で見上げる芝崎の表情には不安と心配が入り交じっていたけれど、それだけじゃない快感もあるようで、俺がさっき自分で鏡を見た時の、あの蕩けるような甘い表情が彼の中にも表れていた。  そして、改めて思った。芝崎に抱かれている時、俺はいつもこんな表情を彼に対して見せているんだと。自分がそうであるように、中を突き上げられる瞬間の身体を巡る快感だけじゃなくて、彼に愛されているという満たされた実感も得られるんだと。  これもまた、逆の立場にならなければ気付かなかった事だ。そんな事を感じながら探り探り動いていた時、俺は突然自分の中で身体全体が跳ね上がるような感覚を覚えた。    どうやらそれが俺の最も感じやすい場所、つまりは前立腺なのだと分かった。 「…っは……あうぅ…っ!」 「……う、くっ…!」  唐突に前立腺を刺激してしまった俺が急に身体を強張らせたので、中に収められた芝崎自身もそれに反応してびくり、と緩やかに蠢いた。 「……あぁう…っ!!」 「…あ…結真君っ、そんなに締め付けないでください…っ」 「…ごめん護…っ…でも俺、もう止められない…!」  いつも冷静な芝崎にしては珍しく焦った声で俺の動きを止めようとしてきたけれど、最も強い快感を得られる前立腺を探り当てた事で、俺の中の達きたい気持ちに瞬間的に火が付いてしまったから、これ以上の理性を保つことなど到底出来るはずなどなかった。  ただ先に待ち受ける絶頂を求めて、俺の中に収められた芝崎のそれを自分の動きでキュウキュウと締め付けながら、いつも感じるあの全身の血が駆け巡るような最高の瞬間を芝崎にも味わわせてあげたくて、少しずつスピードを速めていく。 「…う…!…っあ、あ…っ…は…っ」 「…護…っ……気持ちいい…?」 「……っ…気持ち、良すぎて……あ…頭がおかしく…なりそうです…っ」 「……ごめん…俺、もう達きそう……っ」 「……僕も…!……結真…っ…う、く……あっ…!!」 「ん、ぁああーっ…」  程なくして、快楽に震えた芝崎の身体から放たれた精が俺の中へと注ぎ込まれた。 時を違わずして俺自身も2度目の絶頂を迎え、1度目よりも更に多くの精を放出し、芝崎の腹の上で白く濁った筋を残したのだった。  全ての行為を終えた後、いつもとは違う立場で初めて抱き合った俺達二人の疲労は相当のもので、しばらくの間その場から動く事が出来なかった。だが、自分達が感じた身体の疲労以上に、二人の思いが深く繋がっているんだと改めて認識できた事で、その心は十分過ぎるほどに満たされていた。   「…驚いた…。まさか結真君がここまで僕を翻弄してくるとは思わなかった…」 「護さんだって、いつも俺に対して同じような事してるでしょ。…さっきのはその仕返しです。…どうです、他人に達かされた気分は?」 「こんな幸せな仕返しなら、もっとされても良いかも知れませんね…」 「……馬鹿言ってろ。あんたはマゾか」 「…だけど…僕は嬉しかったんですよ。いつもは逆の立場なのに、それでも僕を受け入れてくれて…心の奥まで満足させてくれた君が…」 「俺だって男です。…ただ抱かれるばかりじゃなくて、抱いてみたいと思う事だってあるんですよ。それがたまたまあの状況で、俺の行動と思いが一致しただけの話です」 「…そう…ですか…。」  その声が届くか届かないか分からない程度で、芝崎が小さく呟いた。 これまで、あまり見られなかった彼の少し違った反応に不思議な何かを感じ取った俺は、その言葉が意味する所の真相をさりげなく聞いてみる。 「…どうかしましたか?」 「…実は昨日…航太に言われてしまったんですよね。本当の僕は、相手を受け入れるよりも相手に受け入れられる側の方が好きなんじゃないか…って」 「へえ…。で、実際はどうなんですか?」 「…今はどちらとも言えないのが実情です。…この話をすると、君にはいつも申し訳ないと思ってしまうんですが…その昔、殿崎君…匠とさっきのような流れになった時は、僕はいつも彼に抱かれる立場でした。…当時の僕には、それがとても嬉しかった。…彼に幾度となく泣かされても、僕は彼に愛されているんだと…頭の中ではそう考えていたんです」 「…やっぱりそうなのか…」 「…ですがある時、匠とのセックスの様子をたまたま航太に見られてしまって…」 「……え?」 「僕はすぐに止めてくれと言ったんですが、彼はそんな僕の声には耳を傾けてくれなくて。それどころか、僕を更に追い詰めていったんです。…たった5歳の子供の前で」 「…うわ、それは…。あ、もしかして…それが前に言ってたあの…?」 「……はい」 「…なるほど。…それがあの子の言ってた護の『弱み』ってやつか…」 「……?」 「…いや、何でもないです。…だからあの後、護さんは殿崎さんと別れたんですか?」 「…別れたと言うよりは…許せなかった気持ちの方が強いです。…僕だけならともかく、航太のような幼い子供に傷を与えるような貶め方をした彼を許す事が出来なかったんです。…でもあの頃の僕は、匠の存在そのものが全てで…本当に周りが見えていなかった…」 「そんな事、もう気にしない方がいいですよ。昔は昔、今は今。それでいいじゃないですか。俺は、今のあんたが好きなんです。その気持ちが変わる事はありません」 「結真君…。君は本当に不思議な人です。僕みたいな人間にとっては、君はあまりにも優しすぎて…だからこそ、僕は君を失いたくない。…いつか気持ちは離れていってしまうかも知れないけど…今、この瞬間だけでもいい。僕の傍に…居てください」  少し涙の混じったような声で、芝崎が俺の肩を掴む。 掴まれたその手は震えていて、いつかまた愛する人を失うかも知れないという不安や恐怖に押し潰されてしまいそうになる…そんな自分の心を、彼は本当にギリギリの精神状態の中で必死に保とうとしているんだと、俺にはそう思えた。    これほどまでに、俺に向けられた芝崎の想いがその心に深く刺さっているのだと。  ――だからこそ、俺は芝崎を守らなくちゃいけない。…かつて自分が芝崎に守られていたように、今度は俺が彼を守ってやらなければ。…彼の中に潜んでいる、本当の彼自身のことを。         

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