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第2話 封印したのに。。
12帖の部屋といっても、ワンルームの中にベッドもテーブルもキッチンもあって、俺ひとりが暮らすには十分だが二人となると狭い。
しかも、図体のデカイこの男は、今も目の前でベッドに寄り掛かると、すっかり自分の部屋の様にくつろぎ出している。この一年のブランクは何処に消えた?
「ハルミさぁ、なんで連絡寄越さないんだよ。せっかく合コンセッティングしてやったのに。うちの課の中では超可愛い女子が居たんだぞ?!」
「そんなの知るか、俺は頼んだ覚えはないし。そもそも、俺とお前じゃ休日も違うだろ!どうせなら同じ職種の斎藤とか誘えばいい。」
「またぁ~、そういう事を云うぅ。お前は昔っから変わらないな、女子が怖いのか?休みが違うからなんてのは言い訳。興味のある娘なら、たとえ明日出張の予定が入っていたとしても遊ぶぞ!」
「.............だから、正臣と一緒にすんなって。俺はそういう事に労力を使いたくないんだ。美容師が遊びまくってると思ったら大間違いだからな。」
「へぇ、そうなの?だって........そんな赤い髪してさぁ、ビジュアル系のバンドのヤツみたいじゃん。遊びまくってる感じするよ?!」
「...................、そう見えるんならソレでもいい。兎に角、俺はやっとアシスタントから脱出してスタイリストになれたの!これから顧客も増やしていかなきゃならない。勉強しなきゃならないんだよ!」
「あ、そう、.............相変わらず堅いね。だから女子にモテないんだな!可哀そうに.....。」
「..............................」
- 誰が可哀そうだって?!
- 残念だな、俺はゲイなんだよ!女子にモテるのはまっぴら。気持ち悪いって―の!
- 云っとくがな、俺はゲイバーではモテまくりだ。そこらのオンナより可愛いって言われてんの。マジで!!
正臣がテレビの画面から目を逸らさないうちに、思いっきり心の中で捲し立てた。
が、俺がゲイだという事をコイツは知らない。
もちろん、仲の良かった同級生の誰にも話してはいなかった。
適当につるんでナンパしたり、数人でデートみたいな事はした事もある。男子高校生の日常の中では、女とゲームの占める割合がほとんど。その中で、俺は男を物色していたんだ。正臣らが女の胸を比べている間に、俺はもっぱら男の股間を想像していた。
「あ、そういえば子供、なんて名前だっけ。」
学生時代を思い出していたら、突然正臣の息子の事を思い出す。
「.......リョウ、涼しいって字だよ。生まれたの2月なのにさ。おかしくね?」
そう言ってこちらに顔を向けると、少しだけはにかんで笑った。
- くっ、、、、、
その笑顔にちょっとだけムカつく俺。
ヤリチンでも息子は可愛いんだな。
だったら真面目にお父さんやってればいいのに........
と、口から出そうになったが呑み込んだ。
コイツといると、俺は色々呑み込む言葉が多くなる。
僅か数十センチ先の距離にいるだけで、俺の全神経がそこに注がれる。見てはいけないと、思えば思う程チラチラと視線が行ってしまうんだ。
一年半前に封印した俺の気持ちは、決して紐解いてはならない。
いつの間にか疎遠になって、その内、そんな友人が居たっけな、ぐらいの感じになれたら良かったのに.....。
「子供は可愛いよ、確かにな。けど、それと父親になるってのは違うんだ。」
訊いてもいないのに、俺の顔を見るでもなく、何処かに視線を向け乍ら正臣はそう云った。
「は?.......子供の父親が何を云う。お前のタネだろ!父親以外の何物でもないわ!」
俺は腹がたってきた。正臣のこういう所がキライだ。事の重大さを分かっていないんだ。適当に女と遊んで、避妊に失敗して子供が出来たからって、結婚して夫婦になって子供も生まれて。なのに、まだその形の中に納まろうとしない。
「お前はホント、軽い男だな!軽すぎ!.........あ~、もう寝る!お前と一年ぶりに顔を合わせたらコレだもんな、疲れるよ。」
俺は立ち上がるとベッドに潜り込む。
ダブルベッドにしたのは、男を連れ込んでもいいように。ホテルに行く金がもったいないし、ここに連れて来る男は一応本命と思う奴だけ。なのに、正臣が居座ってるんじゃ連れ込めないじゃないか..............。
「あ~~~クソッ。」
思わず声に出た。
「なあ、ハルミぃ、一緒に寝よ?!」
「................は????」
頭まで被った掛け布団を思い切り剥ぐと、俺は訊く耳を疑った。そして正臣の顔を見る。
「冗談!!!お前は床で寝ろ!!そこに毛布があるから、それにくるまって寝てしまえ!何なら段ボールで小屋でも作ってやろうか。新聞でも身体に巻いて寝たらいいんだ。おやすみ!!」
もう一度、布団を頭まですっぽりと被る。我ながらヒドイ事を口走ってしまったと思う。でも、正臣と二人でこの布団の中に入るだなんて想像したら...............................
ダメ、だめだめだめだめッ!
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