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第3話 ココロに灯火。

『寒いよ~~~』 『凍える~~~』 『明日の朝、オレ死体になってるかもー』 布団を頭から被っても聞こえてくる正臣の声に、流石の俺も我慢が出来なくなった。 恨めしそうな声で一晩中泣かれたんじゃ、俺が睡眠不足で死ぬ。 美容師は一日中立ちっぱなしの仕事。客がいない時にも奥で洗い物やら片付けをしなくちゃならない。 体力のいる職業だっていうのに....................。 「うるさいな―ッ、もう、............とっとと入れよ!その代わりこっちを向くな!壁側を向いて寝ろよ?!」 「ぅわぁ~い、やったー。大丈夫、オレは寝相がいいから。」 「........ったく!」 仕方なく俺が捲った布団に慌てて潜り込むと、言葉通り壁に向かって横たわった正臣だった。 ホントに調子がいいったら........。 横目でじとーっと見つめる俺に、見向きもせずにふぅ~っと息を吐いて寝る準備をする。 まるで子供の様だ。コイツが父親だなんて信じられない。 俺も隣でごろりと横になる。 触れそうで触れない、ギリギリの腰の位置に妙に意識がいってしまうと、身体をずらして隙間を空けた。 意識しているのは俺だけなんだけど、正臣は隣で寝息を立ててすっかり安眠モード。 .............ホント、腹が立つ! * * *  ベッドサイドに置いた携帯のアラームが鳴ると、いつもの様に布団の中で体操をしようと腕を伸ばして、ゴツっと当たった物に目をやった。 (あ、そうだった。コイツが居たんだ。) 同じ布団で寝る事を躊躇していた俺も、流石に眠気には勝てなくて、変に意識はしたままだったが眠ってしまえば忘れていた。 (コイツ、頭を叩かれても起きないんだ?!鈍感なのか石頭なのか.....。) そろりとベッドから這い出ると、キッチンの作りつけの棚からコーヒーカップを取り出す。 コーヒーメーカーの容器に水を適量入れて、豆を入れると勝手に挽いてくれる奴で、途中のこの薫りがなんとも言えず神経をリラックスさせてくれた。 ドリップされた珈琲をマグカップに注ぐと、カウンターチェアーに腰を掛けた。 テレビのリモコンスイッチを押して、いつもの朝の番組に目をやる。 今朝は霜が降りて寒いらしい。何処かの雪景色の映像で、見ているこっちも寒くなると、マグカップを両手で覆い息をふぅーっと吹きかける。 ふと、ベッドの膨らみに目が行く。 正臣は起きる気配もない。確か今日は仕事って言ってたよな...... 立ち上がってベッドの中のヤツを覗き込んだ。 と、布団の中から長い腕がにゅっと出て来て、俺の手首を掴んでくる。 「うわッ、......」 思わず声が出て、その頑丈そうな手首を捻って離そうとするが、なかなか力が強くて逆に自分の手首を痛めそうだった。 「いってーな!離せよ!」 「........あ、ハルミ、、、、ぁあ、ビックリした。泥棒かと思った。」 「あ?........ここは俺の家だし。.............お前、今日、仕事なんじゃないの?昨夜言ってたじゃん。起きろよ。」 離された手首を回しながら、キッチンカウンターへ戻る。 「あ、いい匂いだな、オレにも珈琲入れて。」 正臣はそう言うと布団の中で大きく伸びをする。 両腕を思い切り伸ばすと、ダブルベッドから出てくる様は、まるでホッキョクグマ。 .........なんていうか、土臭い野性的なクマじゃなくて、綺麗な野生の生き物って感じだった。 珈琲を啜りながら、テレビ画面の時刻を見ると、もう6時25分。 丁度テレビの中からも時刻を伝える声がした。 「あ、やべぇ、こっから会社まではちょっと遠かったんだよな。もう行かなきゃ。」 そんな事を云うと、正臣は着ているシャツとパンツをゴソゴソと脱ぎだす。 「おい、ちょ、っと、ここで裸になるなよ!」 俺は焦る。 高校時代には何度も見た上半身裸のコイツ。でも、流石にすっぽんぽんにはお目にかかる事が無くて。 「だって、シャワー浴びるのに。別にいいだろ?女じゃあるまいし。」 「..........そうだけど、...............一応、洗面所で脱げよな。」 俺が小さな声で言うが、全く気にせずそのまま浴室へと入って行った。 一々気にする俺が可笑しいんだろうな。男同士、なんの照れもなく裸を曝け出す。それが古い付き合いってもんかね?! 肩をヒョイっとあげて、俺は納得したように首を縦に振るとカップを流しに持って行く。 (俺の所からだと会社まで何分かかるんだろう。わざわざ遠くに来なくても近い場所に女が居るんじゃないのか?) 心の中でそう呟いた。 - 浮気相手の女はどうしたんだろう。追い出されたアイツを泊めてやらないのかな。 俺が着替えを済ますと、正臣がシャワーを浴びて出てくる。 もう歯も磨いたらしくて、部屋の隅に押しやったスーツケースからYシャツを取り出すと、それに袖を通した。 目の端で、正臣がスーツに着替える様子をチラリと見る。さっきまでのボサボサ頭はセットされ、昨日の晩に出会ったまんまの美形なサラリーマンが登場した。 やっぱりカッコいいな.........。 - あ、またこんな事を思ってしまう自分って............まったく情けない。 「今夜は何か食べに行こうよ。ハルミの終わる時間分かったらメールして。オレ、美容院まで迎えに行ってやるし。」 「え?...........なんで?」 「だって、ここに置いてくれるし、感謝の意味を込めて。な?!」 「.............まあ、奢ってくれるんならいいけどさ。」 「いいよ、好きな物言って。........ま、取り敢えず会社行ってくる。出来たら合鍵くれ。今夜でもいいけど。」 「ああ、一週間たったら返してもらうからな、鍵。」 「分かってるよ。じゃあな。」 「いってらっしゃい。」 「いってきまーす。」 そんな会話を交わした後は、何故かバタンというドアの閉まる音が胸の奥に響いてきた。

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