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第5話 先輩と親友と・・

 苦手なんだよな...........この人。 大原さんの小悪魔的な顔立ちは好きだけど、妙に心の中を見透かされる気がする。 それに、凄く年上のカレシだかパトロンが居るって噂を聞いた。 俺なんかとは住む世界が違うんだろうな。なんて、本人には云えないし訊けないけどさ。 「ねえねえ、ハルヨシ君のカレってどんなタイプ?スポーツ系?文科系?」 「え?......スポーツ系って、......そういう例え方が分からないんですけど。それに、カレはいませんから。」 正直に答えたつもり。 ゲイバーでモテるのは事実だけど、意中の人なんてのはまだ見つかっていない。 適当に遊んでるだけだった。だから、残念なことにあのダブルベッドも未だ使われる事は無くて.......、昨夜初めて二人で寝たのが、あの正臣とだったなんて........、サイアクだよ。 「ハルヨシ君、ハルミちゃんって呼ばれてるらしいね。ゲイバーのママから聞いちゃった!可愛いよね~、そんな感じするもん。」 「......ぇ、今更ですか。」 この店に入ってもう三年になるっていうのに、しかも、ゲイバーで出会ってからだって二年は経っているだろう。 「あ、ねえ、その髪の色、もう少し薄くても良かったね。ブリーチ甘かったのかな?今度は僕が染めてあげるから!」 「.........はい、お願いします。」 大原さんの話はコロコロ変わるから、結局何が訊きたかったのか分からない。 まあ、俺のカレシの話だって、さほど興味はないんだろうな。目の前のランチを平らげて、珈琲を飲みながらファッション雑誌に目が行っている。 それぞれに会計を済ませると、俺と大原さんはスタッフルームに寄ってから店へ入って行くが、店内に入るとそこはやっぱりいい香りのする憧れの場所で.....。 鏡に映る女性の顔は華やいでいるし、スタイリストのハサミを持つ手も軽快で、俺も早くあの位置に立ってみたいと思うばかり。 でも、カットモデルを探してからだ。 カットの練習を積まないと、お客さんの髪を切らせてはもらえない。 先輩の手元をじっと見ながら、技術を盗むしかなくて.....。 こうして毎日歯痒い思いをしている俺だった。 夜になって店を閉める頃、尻ポケットのスマフォから通知音が鳴った。 (あ、正臣......) 咄嗟に今朝の会話を思い出すと、俺はスマフォを覗く。やはり正臣からのラインメール。 『今からそっちに行く』 ......確か昨夜のメールもこの文面だった気が..... 俺は、頭をブルっと二三度振ると外を覗いた。 行き交う人はまばらになって、もう8時近いしこれから夕食って言うのもな.........。 いつもは簡単な食事で済ます事が多い。 夜、沢山食べたくないし、朝は早いから胃もたれするのが怖かった。 「「ハルヨシ君、お先にね~。」」 「はい、お疲れ様でした。」 口々に挨拶をすると、みんなはタイムカードを押して帰っていく。 「じゃあ、明日は僕が鍵当番だから。先に帰っていいよ。」 「あ、はい.....、ちょっと待ち合わせをしてて。........すみません、もうすぐ来ると思うんで。」 正臣が此処に来るというから、待たせてもらうしかない。 俺は大原さんにペコリと頭を下げる。そしてもう一度ガラス窓の外を眺めた。 (早く来ないかなぁ。今日に限って大原さんが鍵当番って.....。正臣の事見られるじゃん!........ヤだなぁ..........) 段々ソワソワとしてくると、大原さんにも申し訳なくて、俺は荷物を手にすると「あの、外で待つことにします。カギ閉めて貰っていいですから。」と云った。 「なんで?!この寒いのに、いいって。ここで待ちなよ。」 大原さんはそう言ってくれる。 「すみません、」 恐縮していると、大原さんがひょいと顔を横にずらして俺の身体ごしに外を見た。 気になって俺が振り返ると、窓ガラスにくっつきそうな程近づく正臣の顔が。 俺に気付くと外から大きく手を振っている。 (恥ずかしいヤツ!!!) 俺が額に手をやりながらドアに近寄って行くと、正臣もドアから入ろうとしてドアノブを持った。 (あ、バカ、鍵は閉まっているから。) 俺は身振り手振りで、裏へ行くから待ってろ、と告げるが分かったのかどうか.....。キョトンとした顔でこちらを見ている。 「いいよ、ここから出なよ。僕が閉めるからさ。」 「え、......ああ、すみません。」 大原さんが正臣のいるドアに近付くと、ドアを開けてくれた。 「すいませーん、遅くなっちゃって。こんばんは!」 「あ、こんばんは。いいですよ、気にしなくても。」 大原さんはそう云うと俺が外に出るのを待つ。 慌ててドアから出た俺は、「ありがとうございます、おつかれ様でした。」と大きな声でお礼を云うと一礼した。 隣の正臣も同じように腰を折ると、一礼して俺の横に付いて歩いた。 背中に大原さんの視線を感じるとなんとも落ち着かないが、正臣がニヤケ顔で俺を見るから、「見てんじゃねぇよ!先輩待たしちゃったじゃんか!」とこぼす。 「悪ぃな、帰りに捉まっちゃってさ。」 そう云うと両手を胸の前に出して俺を拝んだ。 (どうせ、女子社員にでも捉まったんだろ!) 正臣の事だ。バカ話でもして喜んでいたんじゃないのかと、心の中でふてくされる俺だった。

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