俺は今、目の前に流れていく皿を見ながら胃袋の具合を確認中。 正臣が晩飯を奢ってくれると言って、大原さんにじっとりとした視線を受けながらも付いてきたわけだ。 で、ここが.............、かの有名な回るお寿司の店。 「好きなだけ食え！」 そう言った正臣は、すでに20皿を平らげていた。 「お前、よく食えるな～、こんな時間に大丈夫か？」 「は？何言ってんだ、オレは朝からステーキが食える人種だよ？！こんなの食った気がしないんだけどさ、ハルミが胸やけするとか言うから......」 「.........だって、.........まあ、いいや。俺はもうお腹いっぱい。」 そう云うとテーブルの上のスマフォを見た。時間が気になって、明日も早いしそろそろ帰りたい。 「なあ、まだ食うんだったら、俺、先に帰ってもいい？」 「え？.....なんでだよ、オレも帰るって。」 正臣が皿を積み上げると画面にタッチして店員を呼んだ。 それを黙って見ながら、俺は数えられる皿に一々驚いて正臣の顔を覗き見る。 -　コイツ、26皿も食ってる。 なんだかこっちまで腹いっぱいになってきて、会計を済ますと外へ出るなり「信じられないな、お前そんなに食う奴だっけ？！」と訊いてみた。 高校の時はこんなに食う奴じゃなかったのに。 「結婚してからかな～、やたら腹が減るし、ミキは涼にかかりっきりでさ。オレの飯とか、忘れられてるときあって。」 「え、マジで？」 「そう、だから会社の帰りにオレは食って帰る事にしたんだ。その内ひとりで飯食うのも寂しくなっちゃって.....」 「で、オンナ誘ったって訳か。」 「まあ、そんなとこ。」 「はぁ～、、、、」 深いため息をつくと、マフラーに顔を埋めて頬に当たる冷たい風を凌ぐ。 何処かで聞くような話だな。世のお父さんは子供が出来ると浮気をするのか？ 「正臣の奥さん、一回しか顔見た事ないけど、そんなにキツそうな感じじゃなかったよ。お前も子供の事手伝ったらいいんだ。他のオンナになんか行かないでさぁ。」 足元にまとわりつく枯葉を踏みしめながら、隣で寒そうに背中を丸めて歩く正臣に云ってやると、なんだか俺の気持ちが沈んだ。 別に俺が心配する事じゃないよな...........。 夫婦の問題。正臣が追い出されようが俺には関係ない。 一週間は仕方ないから置いてやるとしても、その後は...............。どうせほとぼりが冷めたら家に戻って行くんだろ。 小さな子供を抱えて、まさか離婚なんて考えてやしないだろう。 正臣の横顔を目の端で捕らえて、また溜め息が漏れる。それをマフラーで覆い隠しているうちに部屋に着いた。 「風呂入って来るから。」 バッグとマフラーをカウンターチェアーに乗せて、正臣にそう云うと浴室へ行った。 洗面所で服を脱いでいると、ガラッと引き戸を開けられて思わず身体を隠す。 「あ、.........何、」 「え？.........ああ、タオル欲しくて。ネクタイに醤油ついちゃった。」 「.......ああ、........はい、」 棚からタオルを取って正臣に放り投げる。 「サンキュ。」 手にしたタオルでネクタイを擦りながら、洗面所を出ようとしてもう一度俺の方に振り向くと、じっと足元から舐める様に見られた。 「なんだよ、見てんじゃねぇ。」 俺がTシャツで胸を隠して言うと、正臣はちょっとニヤけた表情をする。 「ハルミ、..........そうしてるとエロいな。なんか変な気起こしそう。」 「..............は？！バカ！あっち行け！」 思わず声を荒げて言う俺に、正臣のいたずらっ子の様な顔。 フフンと笑って引き戸を閉める。 -　全く、.......病気だな！アイツ。