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第11話 可愛げのない男
いつになく、ベッドの上でパッチリと目を覚ました俺は、白々と昇る朝日をカーテンの隙間から感じて、今朝は隣に正臣が眠っていることを把握していた。
昨夜の妙な出来事も、時間が経てば学生時代の延長線。あの頃の馬鹿騒ぎと何ら変わっていなかった。
まだ隣で寝息を立てている正臣に、気付かれないようそっと布団から出るが、自分の部屋なのにどうして俺が気を使わなきゃいけないんだか.........
取り敢えずは珈琲をセットして、昨日と同じようにひとりカウンターチェアーに腰掛ければ、テレビを小さな音量にして点けた。いつもの俺の行動は、もうここへ来てからずっと変わらない。
毎日朝早くから夜遅くまでは、仕事と練習。休みの日には家の掃除や買い物。
たまに行くゲイバーが、俺の唯一の自分を出せる場所。なんて事は寂しい話だけど...........。
いくらゲイバーでチヤホヤされたって、本当に側にいたい男なんか出来やしなかった。通り過ぎていくばかりで、空しいと感じる事もある。
正臣の様に、若くして父親になっても自分が子供みたいな事してるのに、俺なんかよりは大人に見えるってのが気に入らない。
今だって、誰も起こさなかったら一人で起きられないんだから。完全に遅刻だろ?!社会人としてどうなんだよ。
「........おーい、朝、朝だぞー。おきろー。」
椅子に座って珈琲を飲みながら、ベッドに向かって声を掛ける。
これは、親友としての優しさだ。甘やかす訳じゃない、あたふたして、遅刻したのが俺のせいにされるのは嫌なだけ。
「んん、............」
眠い目を擦りながら、ムクっと顔を出して俺の方を見ると、正臣が「おはよ。」と云った。
「..............おお、」
なんだか、背中がこそばゆい感じがする。こんな朝の挨拶って.........
ベッドの中からされるの初めてかも。
「珈琲、オレにも.....」
正臣は、そう言ってホッキョクグマの様にのっそりと身体を起こした。
ふっ、、、
思わず鼻で笑ってしまう。二日目の朝は、昨日の朝より素直にコイツの顔がみれる。慣れたのか.............?
隣でトーストにかじりつくのを眺めながら、正臣に鍵を差し出すと。
「ん?」
「カギ、一応渡しておく。俺が早い時でも遅い時でも、部屋に戻ったらカギは掛けておいてくれ。一々インターフォン鳴らすの嫌だしさ。内鍵はしなくていいから。」
「分かった。勝手に開けて閉めればいいんだな?」
「そう、俺も出掛ける事あるし、帰って来ない夜もあるかも。でも、そんなの一々お前にいうの嫌だからさ。正臣も家に帰るんならそれでいいし、女のとこ行くんなら行ってくれ。」
こういう言い方って可笑しいのかな。
正臣は、口だけもごもごと食べ物を噛みつぶしながら、目は俺の顔を冷ややかに見ている。
そんな顔されても、な。
「ドライだね、ハルミは。もっと、仲良くしたいとかって、ないの?どっちか早く帰った方が飯を作るとかさ。」
「は?.............なんでお前とそんな事しなきゃならないんだよ。同棲相手か!!バーカ!」
「バカっていうな。ったく、可愛くないんだからさ~。」
「あ?俺は男だし、お前に可愛いとか思われたらキモいわ!.........早く食って会社へ行っちまえ。」
「へえへえ、........顔は可愛いのにさ。」
呟き乍ら口に押し込んだパンを珈琲で流し込めば、正臣は洗面所へと消えて行く。
後姿を見ながら、せっかく素直な気持ちで朝を迎える事が出来たっていうのに.........。
顔を突き合わせると、俺はこうなっちゃうんだよな~。
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