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第19話 カットモデル2

 帰るまでの道すがら、正臣にどういって切り出そうか考えていた。 カットモデルなんて嫌がるだろうな。とは思うけど.............. それに、大原さんが指導してくれるというのも..................なんだか嫌な予感しかしない。 あの人、俺と正臣の関係を深読みし過ぎている。何の関係もないのに。 変な事を云いやしないかと心配になるが、カットの勉強もしたいし..............。 部屋の前に着いて、鍵を開けようとポケットから出した時だった。 ガチャっとドアが開いて、中から正臣が顔を出す。 「ぉ、っっとー・・・・・ビックリー。」 少しのけ反ると正臣の顔を見て云う。 「おかえり。足音がしたから..........。」 そう云うと俺を玄関へ通すが、なんだか変な感じ。ここは俺の家なのに、コイツの家みたいになってないか? もう、前から住んでます、みたいな顔で。 この図々しさを分けてもらいたいもんだよ。ナンパとか出来ない俺は、カットモデルも見つけられないんだから.....。 「あ、なんか.........、おでんの匂いがする。」 「そう、今夜はおでんにしたんだ。簡単だし、残れば明日も食えるからさ。」 「............お前、買い物してきたの?」 「そうさ、今は便利だよな。コンビニ行けば売ってるし。」 「ああ、...........コンビニの、だよな。」 俺は正臣が作ったのかと思って、ちょっと見直したっていうか、こうやって一緒に晩飯を食うって事も悪くないなって思ったのに。 作れるわけないんだよ。コイツ、嫁さんが作ってくれないって、外食で済ます奴だもん。 せめて料理でも出来るんなら、家族に作ってやって平和に暮らせていけるものを。 女誘って飯食って、その後女も食っちゃうヤツなんだ.........。 「はぁ~」 深いため息とともに、カットモデルの件をなんて言おうかと悩む。 「どうした?!早く着替えてくるか、シャワー浴びるんなら先に済ませて来いよ。待ってるし。」 正臣がやけに楽しそうな顔で云うから、調子が狂う。 「ああ、先に食おうかな。腹減ったから。」 カウンターチェアーに腰掛けて、テーブルに乗ったおでんの鍋を見る。 一応温め直したみたいだな。それに、おにぎりがふたつづつ置いてある。後は酒のつまみの様なものが何種類か。 「.......有難うな。買って来てくれてさ。後で金払うから、教えて。」 そう云うと箸を持った。が、正臣は「金なんて要らないよ。居候させてもらってるしさ、気にせず食べてくれ。」という。 その言葉で、俺は正臣の顔を見ると「いつ帰るんだよ。嫁さんと子供、放っておくなよ。いい加減謝って家に置いてもらえ。」といった。 そうでも云わないと、こんな風に二人でいる事に慣れるのは怖い。 別に恋人でも何でもないのに.........、変に情が湧いて。 しかも、俺には過去の想いがあるから、余計に怖くなってしまう。あんな気持ちを呼び起こすのは嫌だ。辛いのは御免だよ。 「いいから食えよ。オレの家族の事はいいからさ。ハルミは心配すんな。」 そう言って、何食わぬ顔で器に大根を入れているから、ちょっとムカつく。人の気も知らないで.......。 「..........なあ、正臣の嫁さん、カットモデルとかやってくれないかな。」 「え?.........お前の?」 「そう、先輩にモデルを連れて来いって言われててさ。俺、まだ一人もカットモデル捕まえられないんだ。」 正臣に頼むどころか、俺は何を思ったか奥さんに頼もうとしていた。 なんとなく、二人を会わせればいいんじゃないかって思ったんだ。ホントに、なんとなく.............。 「..............無理だな。............きっと断られると思う。」 いとも簡単にそう言われて、俺は気が抜けてしまった。 頼んだ俺も悪いけど、そんなに早々に断らなくても..........。訊いてもくれないんだ?! 「なんでだよ。正臣が頼んでよ。俺の為だと思ってさあ。」 「ダメ。ハルミには会わせない。」 「...........は?.............なんだ、ソレ?!どうして俺には会わせてくれないんだよ。」 「どうしても!.......モデルがいるならオレがなってやるから。」 「は?..........お前が?」 「そう、オレだって美容院でカットしてもらってんだからな。ハルミに切ってもらうのは、ちょっとアレだけど.....。まあ、いいよ、なってやるから。」 「.............おい、今、俺の腕を疑ったな?こう見えても学校じゃ器用な方で、カットだって上手いって言われてたんだからな!それに、この前切ってやったろ?!」 「ああ、分かった、じゃあ、信じるから。兎に角オレがなる。」 「..............おお、じゃあ、頼んだ。今度の月曜日、夜の7時頃来れる?」 「うん、行けるから、.........行くから。」 なんとなく、回りまわって結局、正臣にカットモデルを頼むことになってしまい、店からここまでずっと悩んでいたことがバカみたいに思えた。 頑なに、嫁さんを俺のカットモデルにはしたくないというところは腹立たしいが、でもまあ、経験が無いから仕方がない。 もし、変に切り過ぎでもしたらそれこそ余計に二人の仲もこじれるかもしれない。 俺は大人しくおでんをつつくと、隣で黙々と口を動かす正臣に目をやった。 いつもより静かな正臣が、ちょっと気になる。嫁さんの話題は避けたいのかな..............。

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