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第27話 思い出。
「あれ、セクハラじゃね?!」
一時間ほどで正臣のカットは終わり、大原さんは手とり足取り教えてくれたが、それを見ていた正臣が突然そんな事を云い始めた。
一足先に大原さんは帰ったところで、本人のいる前でそんな事を云わなくて良かったと、俺は胸を撫でおろす。
「俺は男だよ?!どうしてセクハラ?.........バカな事云うなって!」
本当は、大原さんがゲイで男に対してそういう気持ちを持つ人だって分かっている。でも、俺に対してのそういう感情は無いと思っていた。
「だってさぁ.........、あんなにくっつかなくたっていいよな?!」
正臣は、戸締りをする俺の後ろでブツブツ言いながら足踏みをした。
「寒いから何か暖かい物食べて帰ろうか?!」
俺が鍵をしまうと正臣に訊く。大原さんの話しをこれ以上したらマズいと思い正臣の気を逸らせるつもりだった。
言いながら正臣の頭に目がいくと、ほんの少し揃えるつもりが、やっぱり左右を調整していたら短くなってしまい、この寒空に見る短髪は余計に身体を震わせると思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ラーメンがいいな。」
「おう、そうだな。じゃあ、俺がおごるから。」
「え、いいの?」
「うん、モデルになってくれたお礼も兼ねて。第一号だしな。」
「ああ、そっか、............うん、ご馳走になるよ。」
並んで歩く街路樹の下。少し先に小さな中華料理屋の看板があり、正臣と二人でソコを目指す。
昔風の小さな店は、カウンター席がメインでテーブル席は足ったの三席。
その奥まったテーブルに着くと、メニューの中からチャーシュー麺を注文した。
「高校の時は帰り道によく寄ったよな、ラーメン屋。ハルミはいっつもチャーシュー麺だった。」
そんな昔の事を覚えているんだ?!
「そうだっけ、確かに高校時代はいつも腹を空かせていたな。俺、そんなにチャーシュー麺食ってたかな?!」
「食ってたよ。斎藤がお前のチャーシューを一切れ横取りしてキレてたじゃん。」
「そうだっけ.......?」
懐かしそうに目を細めて話す正臣を見ながら俺が笑うと「忘れっぽいな!」と言ってふて腐れる。
高校時代の俺は兎に角コイツの事が好きで、他の奴の事なんか眼中になかったのかもしれない。思い出の中にあるのは俺と正臣との距離感だけ。それからあの日のふざけたヌき合いごっこ。
お待たせー、と言って店主がラーメンを運んでくれると、二人して早速箸を伸ばす。
麺を啜りながら、時折正臣の頭に目が行くと、それに気づいた正臣が口をもごもごさせながら「上手くカット出来てんじゃん。大原さんも良かったって言ってたろ?!」と云う。
「まあ、な......。でも、ちょっと切り過ぎたよな。襟足は刈り上げみたくなっちゃったし、ごめん。」
箸を止めるとそう言って正臣に頭を下げた。
「何言ってんだよ。ちゃんとそれなりになってるし、充分だと思うよ。」
「そう言ってもらえると安心するんだけど..。」
ははは、と笑う正臣に俺も笑顔が出た。
部屋までの帰り道、二人で肩を寄せ合う様に歩くと何度も肩先が当たってしまう。
それが心地好くて、この道が永遠に続けばいいのにと、そんな事を願ってしまった。
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