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第28話 疑心暗鬼。

 「昨夜は何処に行ってた?」 身体をすり抜ける木枯らしに煽られて、正臣と肩を寄せて歩く俺は、胸の奥深くに燻る疑問をつい口にしてしまった。 そして訊いた途端に自己嫌悪に陥る。何度味わえばいいんだ............こんな気持ち。 「ミキの............、子供の事で話があって、家に帰っていた。」 正臣の口から奥さんの名前があがって、本当なら喜ぶべきところ。ちゃんと話し合って許して貰って、家に戻ればそれで全てはうまくいく。俺のこんな気持ちも、二度と浮上する事は無くなる筈だ。 「そうか........。で、いつ戻る?帰れるんだろ?子供には父親が必要だしな。」 「.............そう、なんだけど...........。」 風の音がビュービューと煩くて、いつになく小声でしゃべる正臣の声が聞き取りにくい。こんな夜に大きな声で、しかも歩きながら話す事でもないかと、俺は訊き返さずにいた。 部屋に着くと、早速浴室へと行き風呂にお湯を溜めようとする。 蛇口を捻って底に溜まる湯を眺めながら、ぼんやりとした。 正臣は家に戻ってしまう。もう、ここへは来る事もないかもしれない。今夜が最後なんだろうか.............、それとも明日か.........。 「ハルミ、............話があるんだけど。」 正臣が、ぼんやりと浴槽を眺める俺の背中に声を掛けた。 「あ、なに?」 フッと、我に返った俺は振り向くと浴室から出る。 洗面所で立ったままの正臣に微笑むと、俺はその前を通り過ぎて部屋に戻ろうとしたが、急に正臣が俺の腕を掴んだ。 グッと力を入れられて、驚いた俺が顔を上げると、正臣の真剣な眼差しが俺に注がれる。 突然の事に、唖然と口が開くほど呆けている俺。でも、何故か正臣が俺の身体を抱き寄せるから、呆けた口元は歪んでしまう。 「なっ、なにすんだよ!!また、サカりたいのか?お前ってヤツは全く・・・・」 掴まれた腕を振り解こうともがく俺。でも、力が強くてビクともしない。 それどころか、益々背中に回された腕に力が入ると、本当に息をするのさえ苦しくなってくる。 「は、離せっ!......ゴホッ、ゴホッ.......」 「あ、ゴメン」 やっと正臣の腕が離れてくれて、俺は飛びのくと部屋へ逃げていった。 全く、何を考えているのか分からない。昨日、家に戻って奥さんと子供の顔を見てきたんだろうに....。 また、こんな風に盛りの付いた犬みたいになって。 「お前、もう、早く家に帰れ!!明日、絶対帰れよ?!...............分かったか!」 そう言って怒鳴ると、流石に反省したのかしゅんとうな垂れた。 ふざけただけかもしれないが、今の俺にとってはものすごく重大な事で、どんどん正臣に引き寄せられてしまったら、もう後戻りは出来なくなりそうで。 気持ちをぶつけて玉砕されたら、その方がいいのかもしれないなんて、そんな事を思ったりもするんだ。 そうしたらもう友達にも戻れない。一生、正臣の眼の届かない場所で生きていくしかない。 俺は斎藤たちとは違う。 普通の、仲の良かった同級生という目で正臣の事を見れないから...........。 「ごめんハルミ。...........ごめん。」 「風呂入ってくる。」 俺はそういうと、着替えを持ってもう一度浴室へ行った。そうして裸になると浴室には鍵を掛ける。 腰の辺りまでしかない湯船に入り、膝を抱えていたら涙が溢れてきた。 ほんの一週間足らずの同居で、心を搔き乱されて歪な感情が浮き彫りになると、自分で自分を持て余す。 こんなに女々しい男になっていたなんて...........。 全身を隈なく綺麗に洗い終えると、少しだけスッキリとした気がして浴室から出た。 洗面もドライヤーも済ませると、背筋を伸ばして部屋に戻りカウンターチェアーに腰掛ける。 正臣はベッドの脇に置かれたスーツケースをゴソゴソと片付けているようで。 やっぱり明日出て行くんだろうと、横目で見ながら胸はチクチクと痛んだ。 冷蔵庫の中の水を注いで飲み干すと、正臣が手に何かを持って俺の傍に来る。 一瞬だけ身体がビクッとなるが、その手に持たれたものを見たら「あ、」と声が出た。 「これ、見てくれよ。」 俺に差し出したのは、先日正臣のスーツケースで見つけた奥さんと子供の写真だった。 「.............なんだよ。普通にお前の嫁と息子の涼くんだろ?!」 眉間にシワを寄せて云ってやる。 「どっちに似てると思う?」 「は?.......涼くんか?そりゃあ、奥さんのミキさんだろ。バッチリの二重瞼だし顔の輪郭とか......」 そんな見たままの事を云うが、それが何だというんだろう。正臣は何を云いたいんだ? 「子供の眼の色、分かんねえ?写真じゃ分かりづらいかな。」 手にした写真をもう一度自分で確認しながら、俺の顔を見て云った。 「..........え?」 変な事を云う。 俺は正臣の手から写真を受け取ると、じっくり目の前に近付けて見てみる。 この前はチラッとしか見ていなくて、単純に奥さんに似ているとしか思えなかったが。 「............ぁ、...............眼の色が、.........え?........茶色、しかも色素が薄い?」

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