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第38話 命の話?
店の二階のカフェで休憩をとっていると、大原さんが隣にやってくる。
「お疲れ様です。」
目が合ったのでそう云うと、「ああ、」と頷いただけ。
このぶっきらぼうな態度がホント、苦手。
気に障る事をしたんだろうか、とか機嫌が悪いんだろうか、とか余計な心配をしてしまうんだ。
「友達、全然来ないねぇ。もうそろそろカットに来てもいい頃じゃね?」
「.............ああ、はい。............」
正臣の事は忘れようと思っているのに..............
こうやって俺の傷口をえぐるんだよなー
「アレキサンダーへ顔出してんだってね?!」
「はい、.........いい店ですね、あそこ。」
「言っておくけど、チハヤさんはダメだからね。」
「..........?ダメって、なにがです?」
「あの人優しいから声とか掛けてくれるし、相談事なんかも聴いたりしてくれるけど、だからって好きになってもダメだから。」
「..................」
何を突然?
大原さんがあそこの店を教えてくれて、マスターのチハヤさんて人を紹介してくれたのに........。
「あの、.......俺、別にマスターの事は。.........好きって言っても人として、って感じで。」
「あ、そう?!ならいい。」
俺の横に座った途端、変な事を云われて驚くが、すぐに大原さんがあの人の事を好きなんだと分かった。
俺の返事に安心している様な表情が、ちょっとだけ可愛いなんて思えてしまう。
注文した珈琲を飲み干すと、俺は席を立とうとする。
「あ、ちょっと。」
大原さんが俺の腕を掴んだ。
「は?」
おもわず掴まれた腕を見てしまうと、大原さんの顔に目をやる。
「命なんて、明日どうなるか分からないんだ。今欲しいものは、今手に入れた方がいいよ。ハルミ君。」
片方の頬を膨らませると、当然の事の様に俺に云った。
命の話?
すごく重いな.........。
そんな事を考えている人には見えないんだけれど。
「............はい、分かりました。」
俺はそう言って頭を下げた。
その後で首を傾げるが、会計を済ませるとそのまま下の店へと降りて行く。
時々真面目な事も言うんだよな~
大原さんの印象は、入店以来目まぐるしく変わる。遂に人生と死を語る人になってしまったか.....。
階段の最後の一段をピョンと飛ばして降りた俺は、ふと二階へと続く階段を見上げた。
-----何が言いたかったんだろう?
正臣の事を忘れたくても忘れられない俺に、どうしろっていうんだよ。
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