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第42話 遠い記憶。
- はるみ -
高校時代の女の名前を思い出そうとしたが、正臣はちゃんと付き合っていた訳じゃないし、次から次へと変わる女の名前なんか一々覚えていなかった。
都度、哀しい気持ちになった事はあった。誰に誘われて、とか聞かされる度、俺は笑顔の裏で唇を噛みしめていたんだ。
その女の中に『ハルミ』って名前があったかどうか分からない。
アイツが俺をハルミと呼ぶようになったのは、いつだったか俺の家に来たとき、オフクロが女の子だと思ってこの名前をお腹の中の俺に呼びかけてたってのを聞いたからだ。それ以来俺の前ではハルミと呼ぶんだ。けど、友達の前で呼んだ事は一度もなかった。
ベッドに背中を凭せ掛けると、ぼんやりマグカップに口を付ける。
珈琲の香りを堪能しながら正臣の周りにいた女を思い浮かべる。が、やはり靄がかかった様に顔は思い出せなかった。
たまたま俺の呼び名と同じ女がいて、アイツがその女を好きで、でも、どうにもならない相手だったとか.........
ひょっとして不倫、とか?
まさかな............
どちらにしても、そうだとしたらこの前のアレはちょっとムカつくな。
俺の名を呼ぶふりをして、その女の名前を呼びながら達ったんだとしたら............
それにしても、本当に離婚を考えているんだな。
ミキさんの話だと、正臣はお腹の子供が自分の子ではないと分かっていて結婚したって事だ。
そして無事に産ませてあげた。
アイツはミキさんと子供に愛情を与えていたんじゃないのか?
子供は可愛い、って云っていたし。
でも、父親になる事は別とも云っていた。俺には何の事だかサッパリ分からないが........。
このまま家に帰らずどうするつもりなんだろう。
いったい何処で暮らしているんだよ。まさか、そのハルミって女の所か?
俺の胸の中に黒い渦がたちこめると、その場でマグカップをギュっと握りしめた。
いつもなら癒されるはずの珈琲の香りも、今夜は只苦いだけのものとなる。
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