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第43話 ホントのところ。
ミキさんがやって来て数日経ったある日、友人の斎藤が俺のいる店に顔を出した。
「元気そうだな。相変わらずその髪の色は目立つね。」
そう云ってメガネの奥で目を細めて笑う。
斎藤は高校時代の友人。俺と正臣の共通の友人で、サラリーマンのわりに昼間でもこの辺をウロウロしていて、取引先が近いとか云ってたまに寄り道をしては顔を出していた。
「斎藤、お前またサボリか?」
「おいおい、人聞きの悪い事云うなよ。営業のついで。担当者が留守でさ、ちょっと時間つぶしだ。」
店に来ると、俺の顔を覗くふりして店の女の子を物色している奴だったが、今日はちょっと何か言いたげな様子で、「時間ある?」と訊いてきた。
「うん、休憩行けるけど。上のカフェで待ってて。」
「分かった。」
斎藤と言えば、この前ミキさんが俺の事を斎藤に訊いたと云っていた。
それもあって、きっと気になったんだろう。
アイツも正臣とはたまに出会ったりしているようだったし。
店長に休憩へ行くと告げて二階へあがって行く。
カフェの一番奥に座っていた斎藤が、俺に気付くと手を上げた。
テーブルに着くなり、突然身を乗り出して俺の腕を掴む。
「な、なんだよ。」
おもわず手を振りほどくと云ったが、、斎藤は尚もニヤリとしながら手でトントンと俺の肩を叩いた。
「正臣、なんかやらかしたんか?奥さん来ただろ?!」
その顔は心なしか上気していて、これこそ他人の揉め事に興味深々といったところ。
「ゲスいな、お前。正臣がなんかやらかして嬉しいのかよ。」
「まあ、嬉しくはないけどさ。デキ婚で幸せそうな顔見せられるよりは、ちょっと興味湧く、かなぁ?!」
「........ったく。」
俺が珈琲を注文している間も、斎藤はじっと俺の顔を見つめたまんま。
何かを聞きたがっていた。
「奥さん、ミキさんだっけ、訪ねてきたんだろ?」
「ああ、正臣が俺の所にずっと居るんじゃないかって、心配して来たんだろ。」
斎藤の顔を見ながら云ってやるが、「それだけ?」といった顔はちょっと拍子抜けしているようで。
「斎藤さぁ、正臣から何か聞いてないの?アイツ家に帰ってないんだって。俺にはミキさんに追い出されたみたいな事云ってさぁ。置いてくれって云うから一週間は置いてやったけど......。」
珈琲が運ばれてくると、カップに口を付ける。
「なんでそんなウソをついたんだろうな。お前の所に行くなんてよっぽどじゃね?ずっと会ってなかったのにさ。」
「ああ、........そうだよな。」
一年間、俺はアイツの前から遠ざかっていた。子供が出来た事を知って、本当に自分の中で終わりにしようと思っていたから。
顔を見たら気持ちが揺らいでしまう。友人として、何食わぬ顔で話したり出来ない程、気持ちはくすぶっていたんだ。
「斎藤...........、正臣の元カノでハルミって女知らねえ?」
俺はミキさんに聞いた名前を云う。
「ハルミ?............さあ、覚えがない。元カノが居たのも知らないし。正臣って誰かとちゃんと付き合ったりしてたか?」
「や、..........知らない。俺もあんまり思い出せなくてな。」
そう云うと斎藤も納得したように頷いた。
結局のところ、アイツのヤリチン伝説は何処からでたんだ?
「正臣ってさ、女遊びしているようで実はしてなかったりして。」
「え?!」
斎藤が突然そんな事を云って、俺はズキンとした。
いつも聞かされたのは、アイツが何処かの女子とヤったとか誘われたって話ばかり。
実際つるんで遊びに行った事はある。グループで5,6人。
女も居て、確かにアイツはモテてたし、いつの間にか二人でいなくなっている事もあった。
てっきりその娘と出来ちゃったんだと思っていたけど...........。
「..............モテるふりしてただけって事?.............まさか、.............」
まあ、見栄を張りたい気持ちは分からなくもないが。
「ハルヨシが一番近くに居たじゃんか。正臣の女知ってるんだとばっかり思ってた。だからミキさんにお前の事教えたのに。」
「あのなぁ..............。」
俺は口をつぐんだ。これ以上何を話しても埒があかないと思った。
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