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第46話 どんな顔して?!
目の前の二人のやり取りを聞いていると、なんだか羨ましくなる。
ここで同棲している訳じゃなさそうだけど、それでも深い所でこの人たちは繋がっている様な気がした。
大原さんはスタイリストの中でも腕はいい方で、それなりに給料だって貰っているだろう。
この部屋の家賃がどの位か分からないけど、そこはタダで住まわせてもらっているって事か。
だからパトロンがいるって云われているんだ。
大原さん自身が云ってるし.....。
「あの、俺、そろそろ帰ります。ご馳走様でした。」
そう云って立ち上がろうとしたら、「あ、待って待って。話があるんだから!」と腕を掴まれる。
「え?」
仕方なくもう一度腰を降ろすと、大原さんの顔を見た。
「あのさ、今日本店でオーナーに言われたんだけど、今度出す新しい店、僕とハルヨシくんに来て欲しいって。どう?」
目を丸くして聞く俺に、大原さんは微笑みながら云う。ちょっと嬉しそうっていうか、自分は行く気満々って感じ。
「どうって、訊かれても........。別に俺は、何処でも行けと言われたら行くしかないんで.....。」
従業員の俺に決定権なんてないのに、そんな事訊かれても、と思った。まさか外国に行くわけじゃあるまいし。
そう思って口を尖らせると、大原さんはちょっと大きな声で「今度の店は男ばっかりなんだって!」と云った。
「は?...........」
「だから、スタッフは男しか居ないんだよ。もちろん客はどちらでもいいんだけどさ。」
「え、そんな美容室ってありますか?」
俺が複雑な面持ちで訊けば、大原さんは自慢げな顔をして口元をあげる。
「無いから作るんじゃないか。男の客が入りやすい様に。それと、.............云ったら笑われるかもだけど、顔のいい男を揃えるって、オーナーが。」
そこまで云うと、ふふん、と鼻を鳴らした。
「あ~あ、あの人の考えそうな事だな~。天野さん、いくつになっても気は若いね。」
チハヤさんが、俺たちの話を黙って聞いていたかと思ったらそんな事を云い始めて、俺は思わず視線を送った。
二人とオーナーとの付き合いは古いみたいで、俺だけが新参者。
ちょっと話に付いて行けないんだけど.....。
「なんかさ、ゲイの集まる美容室でも作る気かね?!天野さん。」
「オーナーはメンズエステにも興味があるし、そういうスタジオ作りたいって言ってたよ。最近は腕を振るう場所もないし寂しくなっちゃったんじゃない?チハヤさんも自分の元から離れちゃったし、って言ってた。」
「おいおい、変な事云うなって!何十年前の話だよ。」
頭を掻きながら、千早さんが困り顔で大原さんを見た。
でも、大原さんはプイっと顔を背ける。
...........この二人、.................。
益々関係が掴めないな。
「あの、兎に角俺は、何処でも行けと言われたら行くんで。もしオーナーに訊かれたら言っといてください。今日は帰ります。」
「あ、分かった。伝えるね?!.........じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ、お疲れさん。」
「あ、はい。ご馳走様でした、おやすみなさい。」
二人に挨拶をすると、玄関へと向かい靴を履いてドアから出た。
パタン、とドアが閉まると、ふぅ~っと肩の力が抜ける。
あの人たちのこれまでの道のりに、俺が登場してまだほんの僅か。
なんだか大人と子供ってぐらいに人生観が違うよな。俺は小さな事でうじうじしているってのに.......。
新しい店かぁ~
本当に男だらけなんだろうか....?
まあ、ゲイの俺的にはちょっと嬉しいかも。
今の店にも男性客は来るけど、まぁ、ほぼノンケ。
たまに大原さんの知り合いのゲイの人がやって来ると、店中に違和感を漂わせて帰っていくんだ。
それはそれで楽しいし、他のお客さんも楽しんでいるみたい。でも、俺はオープンには出来ないんだよな~。
トボトボと、マンションまで外灯の下に映る影を踏みながら歩いて行く。
頭の中に、大原さんとチハヤさんの姿が浮かんでくると、胸がソワソワし始める。
...........チハヤさん、今夜は大原さんとこにお泊りか.............。
くっそ~、いいな~っ!!
俺は能天気にもそんな事を考えながら入口に辿り着くが、エントランスの重いガラスドアを開けようとして向こうに見えた姿にハッとした。
ポストの前に立っていた男は、長身で切れ長の目をしたカッコイイ男だった。
「な、にしてるんだ?」
正臣の姿をひと月ぶりに見た俺が、戸惑い気味に声を掛けると、「よお、久しぶり。」と言って白い歯を見せて笑う。
この男こそ、俺をうじうじさせている元凶だっていうのに.......。
顔を見たら鼻の奥がツンとしてくる。
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